作品情報
『花腐し』は、松浦寿輝の作風が凝縮された受賞作。
雨と湿り気を帯びた都市の空気のなかで、映画、記憶、欲望が絡み合う中編小説。退廃的な美しさと、過去に取り残された人物たちの痛みが響く。
書籍情報
- 出版社
- 講談社
- 発売日
- 2000-07-01
- ページ数
- 150ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784062103794
- ISBN-10
- 4062103796
- 価格
- 2711 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
「花腐し」芥川賞受賞作。 多国籍な街、新宿・大久保の片隅、夜雨に穿たれた男の内部の穴に顕現する茸と花のイメージ。少女の肉体の襞をめくり上げ見える世界の裏側。腐敗してゆく現代の生と性の感覚を鋭く描く「知」と「抒情」の競演。 「ひたひたと」芥川賞受賞第1作の特別書き下ろし新作小説。 海に面した町、そこはかつて遊廓だった。少年時代の記憶、娼婦ナミ、行くあてのない人々の心と過去が、主人公「わたし」の中に流れ込んでくる。
1954年東京生まれ。詩人、小説家。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、東京大学総合文化研究科教授。1996年『折口信夫論』で、三島由紀夫賞受賞。1999年『幽かすか』が芥川賞候補。2000年『知の庭園──19世紀パリの空間装置』で芸術選奨文部大臣賞受賞。著書は、短篇小説集『もののたはむれ』、詩集『鳥の計画』『松浦寿輝詩集』、映画評論『映画1+1』『ゴダール』、評論『口唇論』『エッフェル塔試論』など。
レビュー
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こんな素晴らしい本が「1円」なんて
2000年以降に芥川賞を取った小説を今さながら買い求め読んでいるが その中でも心に残った作品のいくつかの一つだ アパートの追い出しをかけに訪れた部屋で居残る住人と追い出す側の主人公・・・ ほんの半日の物語だ・・・ 空っぽになったときに本当に見えるのが「心の花・・・・」 もちろん自分自身が空っぽの奥深い境地など垣間見えないだろうけど そこまでにいく心象風景・・・ 自分の一言が恋人を死なせた考える主人公・・・・ 素晴らしい作品だと思います
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雨ふって茸のさばる
芥川賞の「花腐し」と、受賞を寿ぐ「ひたひたと」の短篇2作品。どちらも幻想というより技巧の作である。 「花腐し」 倒産の危機に追い込まれた主人公の中年男が、金策として引き受けた「にわか追出し屋」、相対するは法外な負債を背負い、朽ちたアパートにひとり「居座る茸男」だ。じめりとした鬱陶しさに、しぶしぶ酒を酌み交わせば、人情と人生訓がたぎる、来し方への想いがたゆたう。去った旧友にも死んだ同棲相手にも憎まれていたのではないか、消極的な態度が疎まれていたのではないか。「川のない街」、それは濡れそぼる。雨は流れずに浸み込み、腐すばかり。いまこの瞬間を生きなくては……。 「ひたひたと」 中年のカメラマンが運河沿いを歩めば、子どもの頃そして青年の頃の自分がフラッシュバック。どすぐろい影が蠢いている。路地から路地へとさらい、濁った深い水の運河へ。「川の流れる街」、そこは堤防に守られている。そこから逃げることはできない。
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注意! クセになります(笑)
昨年末に『巴』を読んでからこの作者にはまってしまい,これが5冊目.これも良かったので,さらに『そこでゆっくりと・・・』を注文してしまった.中毒症状ですな(笑).
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じとじとと湿った物語 さらりと爽やかな文体
〇 ひとつは風情ある作品名に惹かれ、もうひとつは詩人松浦寿輝が書いた小説ということで、どれどれと読んでみた。作品名のようにじめじめと雨が降り続いているような雰囲気が充満した物語。それでいながら文体にはジメついたところがなく、さらりと爽やかだ。この文体が魅力かなと思った。 〇 ストーリーは、倒産の瀬戸際に追い込まれた40男が、たまたま知り合った同じように風変わりな男と交流し、同時に昔の同棲相手との生活を思い起こすというもの。情緒があって叙情的だとも言えるし、すべてが男に特有の身勝手な幻想だとも言える。作者には主張したい思想があったわけではなく、こうした気分を描きたかったのだろうと思う。そうだとすれば成功している。 〇 とは言え、これはひとむかし前の古びた叙情だ、デジタル時代には振り向かれないだろうなと思ったのだが、なんと2023年に綾野剛・柄本佑で映画化されたというではないか。こういう気分はまだ受け入れられるのかな?
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小説は空間芸術である。
三浦雅士が松浦寿輝にとっては、「小説は時間芸術でなく空間芸術でなければならない」と云っている。 時間芸術の小説を体が受け付けなくなって久しいが、成程これは抵抗なく読める。 それは、過去・現在・未来という通俗的時間の流れでなくて、謂わば過去、現在、未来は「今」に蝟集している空間である。 人類は、人工の時間より遥かな時間をそのように過ごしてきたはずだ。分節しない世界で。
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昔の漫画のような世界観
昔のつげ義春風の幻想世界。それを小説に丹念に変換したという印象をもった。始まりから終わりまで一定したリズムで語られる、潰れかけのアパートや、死にかけの金魚、大量の茸、怪しげな男と女、そして自らの過去に絡めとられる孤独な中年男性…。確かに独特の雰囲気はあるが、やはり既視感を拭い切れない。新人作家に贈られる芥川賞なのだから、もう少し新しさが欲しかったが、それでもこの怪しげな世界観は秀逸だと感じた。万人受けはしないが、力量のある作家なのだろう。
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松浦テイスト
この作者の世界はけだるく沈みがちであり、くぐもった心象にエロスがたちこめている。 どうにもならない人生、悔やみが積もってゆく時間。そういうのを書くのが得意な詩人であり小説家なのだ。当人は東大教授のエリートだが、内面では破れ寂れた言葉世界を抱いているのだろうか。 吉田健一や吉岡実の影響も指摘される。イメージと情緒豊かでかつ退廃的でずるずる続いてゆくところが似ているかもしれない。 世界の中の確固とした行動が拮抗するというような、小説の力とはまた違う。やはり小説を書いていても詩人なのか、したたるようなけだるさ、あやしげなゆるやかさが感じられる。
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虚しさ満開の幕引き
芥川賞受賞作であるタイトル作に、書下ろし作「ひたひたと」が収録された二編からなる作品集。 ■「ひたひたと」 遊廓街であった洲崎方面を足取り重く散策する中年の男。時に子どもの頃に立ち返り、過去を振り返る。待ち合わせ場所の着いた男を待っていたのは、男と暮らす女。女は、失業中の男との暮らしのために、体を売って生計を立てていた。 男の無気力さと諦め、そして二人の底辺感漂う哀愁漂う作品である。 時おり男が抱く子どもに返ったイメージは、逃避の心理状態を表しているのだろうか。罵りながらも二人でいるしかない男女の悲劇が、辛気臭くて重苦しい余韻を残す。 ■「花腐し」 アパートの取り壊しのため、そのオーナーからひとり残っている住人を退去させる依頼を受けた主人公。住人の男と会話をするうちに、酒を酌み交わし、彼の独特の思想に反発と嫌悪を感じながらも、離れがたいものと感じていく。 主人公は、倒産寸前のデザイン会社の四十代の経営者。大久保界隈で雨に打たれ、十数年前に二年一緒に暮らした女に思いを馳せる。 退去させなければならない男、その男が栽培しているマジックマッシュルーム、続き部屋にいるバッドトリップした全裸の若い女・・・。人生をリセットしたい主人公が、過去を振り返りながら、今に流されていく。 たった一夜の出来事ではあるが、濃密な時がつづられていく。ひととき主人公と暮らした女の悲劇が、物語に暗い影を落とし、破滅に向かう男の心情を際立させる。 住人の男の、生き方、そしてそこに居座らなければならないわけは、テツガクとして面白い。虚しさ満開の本作品の幕引きも良いね。 【芥川賞】
関連する文学賞
- 芥川龍之介賞 第123回(2000年) ・受賞