作品情報
北の海霧の中で、一族の虚実と女たちの記憶が立ち上がる。
講談社から2002年10月に上下巻で刊行。上巻 ISBN を代表値として記録し、下巻は 9784062114189。後に講談社文庫では三分冊化され、電子版もある。
レビュー要約
-
作者自身の家の記憶を下敷きにしながら、事実と虚構が混ざり合う大きな物語として読まれる。北の土地の厳しさと、一族を支える女性たちの存在感が強い。
書籍情報
- 出版社
- 講談社
- 発売日
- 2002-10-01
- ページ数
- 508ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784062114172
- ISBN-10
- 4062114178
- 価格
- 405 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
男は霧のなかに夢をさがし女は勁くやさしかった 北辺の地で凛々しく生きた 女三代の物語 寝る間も惜しみ、大人の目を逃れてむさぼり読んだ小説の世界。10代はじめの熱狂がよみがえるような醍醐味を久しぶりに味わった。熱く血のさわぐ物語展開にはまり、いつか読書の世界へ導かれていった遠い日がかさなる。 時代は明治の幕開き早々から昭和初年まで。北海道釧路のきびしい自然と時代の変動を背景に、男たちがいかに生き、敗れ、女たちは運命のくびきのもとどのように生活者としていっさいを支えたか。日本の近現代の歩みを人間のこまやかな営みを通して描いている。著者の血につながる人々へのマグマのような思いが、この物語の魅力の源泉になっている。
■原田康子(はらだやすこ) 1928年東京生れ。2歳の時釧路に移り住む。釧路市立高等女学校卒業。東北海道新聞社の記者となる。1956年同人誌「北海文学」に発表後東都書房から出版された長篇小説「挽歌」(女流文学者賞)はベストセラーになり、更に映画化されブームとなった。主な著書に「サビタの記憶」「望郷」「風の砦」「日曜日の白い雲」「恋人たち」「満月」1999年「蝋涙」(女流文学賞)「聖母の鏡」等がある。
レビュー
-
釧路版 百年の孤独
佐賀から今の釧路に渡った平出幸吉、その妻さよの青春時代から始まり、国策に翻弄されて没落していく子孫を描く。コロンビアに舞台を求めなくても、厳しい風土の蝦夷地で助け合いながら生き抜く人たちの姿には心を打たれる。自身の先祖を取り上げただけに、人物造形の深さはさすが。このような作品を残してくれた原田康子さんに心からありがとうございますと、言いたい。桜木紫乃、河﨑秋子という道東ワールドを舞台にした小説のルーツは、ここにある。全国の人にもっと知ってほしい。
-
名作を予感させる大河ドラマの幕開け
本書は、400ページ以上もある文庫。しかも上、中、下3冊のうちの1冊目。 長編を読む楽しみのひとつは、作者が主人公の人格をこつこつ作りあげる過程をいっしょに楽しむことです。 ロマン・ローランの『ジャン・クリストフ』もそうでした。あの情熱のかたまりのような主人公を造形するために、ロマン・ローランが、3巻も4巻もページを重ねたことを思い出します。 本書の主人公である幸吉は、幕末の佐賀に生まれます。米問屋に奉公しながら算術を身につけ、石炭を掘る鉱山でたくましい体を作りました。石炭という新しい時代の産物にほれ込んだ幸吉は、広大なエゾ地へ渡り、明治を迎えるまでのわずかな期間、オソツナイの炭鉱で働きます。 佐賀でお世話になった奉公先を頼っていったん函館にもどった幸吉は、道東の漁場で商売をはじめる商店の責任者となることを乞われ、ふたたび辺境の地、久寿里(クスリ)へ赴きました。 近隣から頼られるたくましい青年となった幸吉は、恋女房との新婚生活を送りながら、いずれ独立する道を志向します。石炭への思いがつのる幸吉は、この先どんな人生を送ろうとするのか……。 裏表紙に「幕末から明治、昭和へと、激動の時代をひたむきに生きた著者の血族を描いた物語」とあります。著者の原田康子氏はことし80歳ですので、主人公のモデルは著者の祖父か曾祖父にあたるのでしょう。 私は北海道の開拓地に育ちましたので、「広大な未開の地にあって、己の力と才覚で新しい人生を切り開いていく」という物語に強くひかれます。 明治初期の厳寒の地を舞台にしており、やや暗い雰囲気を漂わせていますが、淡々と進む物語と、一人ひとりの人物の描写の的確さは、決して読者を飽きさせません。 吉川英治文学賞受賞というお墨付きです。 きっと、中と下も、読み応えのある内容にちがいありません。
-
女性作家の目が冴える
幕末、明治、大正、昭和と生きた人びとの物語といえば、ドラマチックでおもしろいに違いありません。それが、女性作家の目で描かれるとまた違った面白さを醸すのです。 この物語は、作者原田康子の実家の歴史がモデルとなっているのだそうです。先祖の地、佐賀県にまで通って資料を調べたりして出来たこの物語は、「挽歌」からつづいてきた原田文学の流れを決定的に大きく変えました。しかし、その流れは、彼女の死(2009年10月20日)によって永遠に終わることとなってしまいました。 女性作家の目で描かれたこの小説には、衣装のこと、料理のことなどが詳細に描かれます。主人公は、始めが幸吉で後半は連れ合いのさよという感じで描かれますが、実はさよと娘と孫娘たちなのかも知れません。女性作家の目が冴えている物語です。 さらに、北海道に根を下ろして活躍した作家らしく、北の大地の物語でもあります。
-
読後感がよい
著者の作品で1番好きなのは「サビタの記憶」。初期の作品はみずみずしさに溢れていた。 その後、何十年かを経た本書では、人生のある一瞬ではなく、その人の人生すべてを著者は描くようになった。 この作品は釧路で苦労しながらも生きていく人間たちを描いて、感動に導く作品。手法としては宮本輝に似ている。 読後感がよいのは、かなりな部分、性善説に基づいていることだろうか。 多くの人物が出てくるので、細切れに読む人は人間関係をメモしながら読むと混乱は避けることができます。
-
九州出身の大学生はきっと魅了される女性目線の大河ドラマ
久々の長編小説は原田康子著の「海霧」全三巻です。まず一言で感想を言えば、「ししみじみと人生を考えるきっかけとなる書」です。女性作家ならではの視点からの明治の大河ドラマで、九州出身の方々、特に男性の大学学生必読の書だと思います。 この物語は吉川英治文学賞受賞作品だそうで、高校時代からずっと影響を受けている「三国志」の著者の、あの吉川英治氏の名前がついた文学賞の受賞作。ということで読む前からテンションが上がっていました。 九州生まれの僕は、漠然とした北海道への憧れがあります。そういえば、福岡では、スーパーやデパートで頻繁に「北海道食の祭典」とか「北海道珍味展」とかやっていたように思います。僕だけではなく、九州の人々にとって北海道のイメージはすごくよく、大学時代には、友人も含めて多くの学生が「夏休みを利用した北海道一周ツーリング」などに憧れをもっていました。もちろんTVドラマ「北の国から」も。 (上巻) 上巻の主人公は佐賀県で丁稚奉公から炭鉱の坑夫に転身した幸吉。佐賀藩(鍋島藩)が明治維新の頃多くのリーダーを輩出した、その背景もよくわかります。幸吉の凄さは、早くから次世代エネルギーとなる「石炭」に魅力を感じ、その分野になんとしても食い込みたいという熱意があったことです。自ら坑夫となって重労働するだけではなく、仕事の合間に炭鉱の鉱脈探しをやることは、現在でも通用する、時流を観てチャンスを掴むエッセンスが詰まっています。そして江戸時代が明治となり、苗字がなかった幸吉にも「平出(ひらいで)」という苗字ができたり、当時の蝦夷の植民地(?)政策など、歴史に詳しくない僕の興味はどんどん高まっていきました。
関連する文学賞
- 吉川英治文学賞 第37回(2003年) ・受賞