作品情報
道化師の蝶は、実験小説を軸に作品世界を立ち上げる。
言語、翻訳、旅、記憶が入れ子状に絡み合う実験的な小説。読むことと書くことの境界を揺らし、物語が生成される過程そのものを扱う。
書籍情報
- 出版社
- 講談社
- 発売日
- 2012-01-01
- ページ数
- 173ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784062175616
- ISBN-10
- 4062175614
- 価格
- 1300 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
第146回芥川賞受賞作! 無活用ラテン語で記された小説『猫の下で読むに限る』。 希代の多言語作家「友幸友幸」と、資産家A・A・エイブラムスの、 言語をめぐって連環してゆく物語。 SF、前衛、ユーモア、諧謔…すべての要素を持ちつつ、常に新しい文章の可能性を追いかけ続ける著者の新たな地平。
円城 塔 1972年、北海道生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。2007年「オブ・ザ・ベースボール」で文學界新人賞受賞。2010年『烏有此譚』で野間文芸新人賞。2011年、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞受賞。 他の著書に『Self-Reference ENGINE』『Boy's Surface』『後藤さんのこと』『これはペンです』などがある。
レビュー
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文学賞も捨てたもんじゃないな。
タイトルから想起される通り、胡蝶の夢とか、バタフライ・エフェクトを小説のモチーフにしてみました、といった掌編。 個人的には視点が滑らかに移り変わっていく語りのトリックから、エッシャーの騙し絵を連想した。 本作はデビュー作の『Self-Reference engine』あたりに比べればわりとシンプルな構成で読みやすいと思う。 まぁ、結末で謎解きがされるとか、オープン・エンディングでいくつかの解釈ができるという類のリーダブルな小説ではないけれども。 一応謎の作家を追跡するというプロットの軸らしきものはあるが、閉じた円環というかウロボロスの蛇が連なって尻尾を飲み込んでゆくような仕掛けになっているので、ストーリーの起承転結を追えばいいという読み方には馴染まないだろう。 作者のくり出す語り=騙りの詐術に翻弄され、様々なイメージの連なり(架空の蝶・スパイス・刺繍・言葉・数式)の美しさに酔いしれる、そんな読み方で楽しめばいいと思う。 本作が一種の言語遊戯だというのはその通りだが、それを楽しめるかどうかはあくまで読み手の側の問題かと思う。 「衒学的で鼻持ちならない文章だ」式の評価が出てくるのは止むを得ないにしても、円城氏が小説という表現の可能性を存分に使い尽くすだけの技量の持ち主であるのは間違いないだろう。 たしか円城氏はインタビューで「純文学リーグ向けにはいくらか平易に書くように意識している」主旨のことを言っていたように記憶しているが、それでも本作が芥川賞をとったのは快挙だと思う。正直なところ、これまで芥川賞の選考に関心を持ったことはほとんどなく、優れた作品がきちんと評価されるような仕組みではないと感じていた。今回の受賞で、芥川賞を少しは見直してもいいかという気にさせられた。 ご本人は作品が難解といわれることに当惑気味のようだが、SFにせよ純文学にせよ既存のジャンル小説の枠に収まりにくい作風なので、芥川賞作家になったとはいっても、広く人気を博すような書き手にはならないだろうと思っていた。ところが新作の『屍者の帝国』は20万部突破だそうで、一気にメジャーになったのには驚いた。盟友であった故伊藤計劃の遺作を引き継いだという経緯も関係あるのだろうが、珍しくかなり直球のSFだとか。その気になればエンタテインメントの枠組み内でも書けるということか…? 今のところ未読なので、非常に楽しみにしている。
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読み手を選ぶ作品
好きと嫌いの二択しかない作品です まあまあ好きかも。なんてことはなくて、好きな人はハッキリと好きだと言えるし、嫌いな人は嫌いだとキッパリ言います 普段純文学に触れる機会が少ないためか最初の方は内容が理解出来ませんでした 何を言いたいのか、何を伝えたいのか 只とつとつと文字をなぞるだけ ひたすら「わたし」の語りが続きます 特に二章は会話も少なく、言語に関する論文や研究書を読んでいる錯覚を覚えました 三章の友幸友幸(おそらく)の記憶語りから面白くなってきて無心で読み進めました 所々聞き慣れない表現で疑問符を浮かべたりもしましたが面白かったです そこまでモチベーションが保てないと、つまらない作品と思ってしまうかとおもわれます 抽象的で曖昧かつ最後まで濁した表現なので、最後をハッキリとさせたい、どういうことなのか読了後にスッキリさせたいと思う人には向きません 友幸友幸とは記憶に寄生する蝶の名前の一つでA・A・エイブラムス氏が言うところの「着想」というのがこの蝶ってことなのでしょうか? ハッキリ出来ず、私はもやもやが残りました
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ハードなSFらしさをオブラートに包み、芥川賞を狙って書いた作品
円城塔作品としては異例の読み易さにまず驚いた。ひょっとしてまさか普通の小説なのかと言う疑問が浮かんだが、そんな事はなく、やはりいつもの内容が理解出来ない円城塔だった。ただし、何となく具体的な映像が頭に浮かび何かを理解出来そうであり、遊びめいた言葉の使用が洗練されて美しく、読み手に対して優しい感じはした。連作2篇のうち「松ノ枝の記」の方がより一層とっつき易いと思う。 あえて想像するなら、この作品は円城塔が芥川賞を狙って書いたのではないかと思う。ハードなSFらしさをオブウラートに包み、一見叙情的な美しい言葉でより読み易く受け入れられるように書いているのだ。だが彼の作品の本質は変わらず、通常の小説のように何らかの意味ある内容を求めると理解不能となってしまう。恐らく難解な現代詩とか抽象絵画を鑑賞するつもりで読むといいのである。
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コメント
道化師の蝶、松の枝の記のどちらもとても楽しかった。松の枝の記で自分も文章を書こうと思った。
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欠けたままのパズル
作者がそれなりに博識なのは伝わってきます。 しかし、この作品は完成品ではありません。 何度も読めば、全体の3割くらいは理解できます。 それと同時に、全部を読み解いたところで5割以上は理解できない作品であることに気づきます。 もともと5割以上の回答が用意されていないからです。 この作品を「絵画のような作品」という人が多いですが、部分的には絵が見えますが、半分以上は合わないパズルを無理やりはめ込んだようなモザイクだらけの絵画です。 「モザイクの部分は皆さんで想像して楽しんでくださいね」という事なのだろうけど、それは未完成に他ならない。 なんて事をいうと、「文学は自由だ。何でもありだ」という人もいるでしょうが、芥川賞には見合わない。 未完成品というのもありといえばありだけど、それはあくまでもニッチな人たちが楽しむものであり、文学の賞を得るような類のものではない。 芥川賞なんて取らせたら、ある意味で、この未完成品が「正解」かの様な誤解をまねくでしょう。 実際、これを読んで「これぞ文学!」と騙された人も多いでしょう。 この作品は文学ではなく、ニッチな市場で楽しむ自慰小説です。 加えて、この作者の『記法』には仕掛けがあります。 それゆえに、一度読んだだけでは理解ができず、再読を強いられます。 ここで私がその記法についてヒトコト示せば、この本は格段に読みやすくなりますが、それはこの作品にとっての生命線であり、致命的なネタバレになりかねません。 私はその記法を、『上質なもの』ではなく『不親切』と判断します。 さてこそ以上、悪口ではありません。 なぜならば、後半に収録されている『松ノ枝の記』での記述が本心であるなら、作者自身も投げっぱなしの悪ふざけであることは承知のはずですから。
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大仰な言葉遊びなのだろうか?
恥ずかしながら、一度読了した程度では理解できませんでした。はたしてこの作品は純文学なのか。メフィスト賞に出しても違和感ないと思ったほどの非現実感。場面の転回と、語彙と知識の豊富さで読んでいて頭が痛くなるような、いかにもスノビストが喜びそうな風味。読者を振り回さんとするシュールレアリズム作品なのか、はたまた内容を追いかけることを無為とするダダイズム作品なのか。自分は人よりは読解力があるだろうと思っていたが、勢い良く鼻を折られた。ひょっとしてこの本は「逆立ちする二分間に読む本」なのだろうか?
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芥川賞だけに
やはり賞をとった作品だけに、それなりの作品ではありました。まずまずかな。
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作者自身が抱える悩みをユーモアを交えて自虐的に描いた異色作
作者の作品としては、「Boy's Surface」、「Self-Reference ENGINE」に続いて本作を手に取った。作者の作品の一番の特徴は「読んでも理解出来ない」点にあると思う。その上で、「作品を産み出すチューリング・マシンは作者ではなく、読者の想像力の方」という独創的哲学の下で執筆している姿勢が伝わって来る。 本作も難解である。どうやら、作家の一番の道具である"言葉"を題材にして、言葉を集め、組み合わせる事によってテンプレート作品を創り出すという作者自身が抱える悩みをユーモアを交えて自虐的に描いた物らしい。広く捉えれば、追い求める物は容易には捕まらないとのメタファーとも取れる。また、旅する手芸家と言う設定も作者のポスドク体験を想起させて面白い。視点や時間軸が目まぐるしく変化する構成は、作者自身の言葉を借りれば、位相幾何学的構成と言って良いのではないか。作者自身の投影である主人公が、作中のどのような時空間に存在しても同一点である様なトポロジーを想定しているのであろう。作中に出て来る表裏同一の幾何学模様を持った織物がそうしたイメージを膨らませる。 作者の作品としては色彩感に溢れているのも珍しい。理解しようとすると挫折する恐れがあるので、作者(あるいは作家一般)の苦衷を"想像"しながら楽な気分で読み進めるのが相応しい異色作だと思った。