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ヒカリ文集

野間文芸賞

ヒカリ文集

松浦理英子

学生劇団の中心にいた女性ヒカリをめぐり、彼女に惹かれた人々が記憶を語り直す連作短編集。複数の声から、つかみどころのない人物像が少しずつ立ち上がる。

恋愛劇団記憶関係性連作短編集

作品情報

ヒカリという女性を、複数の声が文集のかたちで浮かび上がらせる。

学生劇団で男にも女にも愛された賀集ヒカリをめぐって、元団員たちがそれぞれの言葉で彼女の姿を語る。文集というかたちを使いながら、恋愛と創作、記憶と虚構の境界を探る松浦理英子の代表的長編で、講談社から刊行された。

レビュー要約

  • 複数の作中作と外側の語りを重ね、ひとりの女性像を多角的に立ち上げる構成が高く評価されている。作品全体が、記憶と愛情の形式そのものになっている。

書籍情報

出版社
講談社
発売日
2022-02-23
ページ数
258ページ
言語
日本語
サイズ
13.5 x 2.3 x 19.5 cm
ISBN-13
9784065267462
ISBN-10
4065267463
価格
1400 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品

二年前、東北で横死した劇作家兼演出家の破月悠高。妻の久代がその未完成の遺作を発見した。学生時代に夫妻も所属していた劇団NTRをモデルにしたその戯曲を読んだ久代は、同じく劇団員だった鷹野裕に声を掛ける。「裕、あの戯曲の続き書かない?」 相談の結果、元劇団員たちがそれぞれ好きな形式で文章を寄せることになった。作品集のタイトルは「ヒカリ文集」。劇団のマドンナであり、あるとき姿を消してしまった不思議な魅力を持った女性、賀集ヒカリの思い出が描かれてゆく。 『親指Pの修業時代』『犬身』『最愛の子ども』……そして新たな傑作が誕生!

1958年、愛媛県松山市生まれ。青山学院大学文学部卒業。1978年「葬儀の日」で第47回文學界新人賞を受賞しデビュー。1994年『親指Pの修業時代』で第33回女流文学賞、2008年『犬身』で第59回読売文学賞、2017年『最愛の子ども』で第45回泉鏡花文学賞を受賞。他の著書に『セバスチャン』『ナチュラル・ウーマン』『裏ヴァージョン』『奇貨』などがある。

レビュー

  • 松浦の新しいスタートなのだと思う

    前提として。前作の『最愛の子ども』を読んだときには、本当に、なんかすごい小説を読んでしまった、と思った。完璧な小説だと思ったし、松浦自身もインタビューで「自分を出し切った」と述べていたような気がする。逆に言うと、それまでの松浦の作品には、どこか詰めの甘さがあったと思っていた。 では、『ヒカリ文集』はどうなのか。 解散した劇団NTRのメンバーによる、ヒロインのヒカリをめぐる文集、という構成。きっかけは、かつて座付きの劇作家だった悠高が残した未完の戯曲。これを他のメンバーがそれぞれ文章を持ち寄って、完成したものにする、という取組みが行われる。こうしてできたものが、「ヒカリ文集」であり、それがそっくりそのまま『ヒカリ文集』という作品になっている。ただし、このメンバーの中にヒカリはいない。 NTRにおいて、ヒカリは役者の一人であると同時に、登場する男女すべてと一度は恋愛関係を持っている。にもかかわらず、サークルクラッシャーではない。そして、ヒカリはどこかで行方をくらまし、後にNTRは解散。その後、未完の戯曲がきっかけとなって、ヒカリ以外のメンバーがつながることになる。 それぞれが、ヒカリについての思い出を書いている。それはつまり、ヒカリとの恋愛物語である。ただし、だからといってみんな正直に書いているわけではなく、悠高の戯曲がそうであるように、どこかしらフィクションを含んでいるという設定、というか戯曲を補完するものであるので、実際の各メンバーとヒカリとの恋愛がその通りではない、ということは注意しなきゃいけない。 松浦における恋愛は、およそ依存関係に落とし込まれる。恋愛とは依存関係である、とか言ってもいいのだけれど、たぶん、そうではない。松浦が描く恋愛に限っての話だ。ヒカリに依存したい男女はいるが、ヒカリは誰にも依存しない。ヒカリは依存を抜きにして、人を好きになるから、恋愛関係に落とし込まれることはない。いちおう、恋人同士みたいな、「つき合っている」ということはできるが、それは持続的なものではない。 とはいえ、ヒカリはいわゆるサークルクラッシャーではなく、劇団のメンバーの人間関係をつなぎとめておく。それは、誰にとってもヒカリは特異な存在であり、そのことが共通の理解となっているからだ。 ヒカリは運命の女として、彼らに何かしら残していく。 あらためて、松浦における恋愛というのは、『ナチュラルウーマン』のときからずっと、特別な依存だったんだなあと思った。そしてそのことを松浦の言葉で書くということには、とても時間がかかったんだとも思った。 人が身にまとうセクシュアリティは多様なものだし、それを既存の言葉ではうまく説明できないことはしばしばある。依存されることで自分自身が定義されるにもかかわらず、一方的な依存関係は持続可能ではなく、それゆえに自分だけが孤独になっていくのがヒカリだ。そのことを、第三者の目から描いたこの作品は、松浦の新たなスタートなのだと思う。それは、やはりまだ完璧な小説なのではなく、どこかしら不十分なところを感じさせる。具体的には、せっかくの構成なのにポリフォニックさが足りないということだろうか。けれども、そうであったとしても、依存を断ち切ることで生きる力を残していく、ポジティブな失恋を残していく、そうした運命の女としてのヒカリは、確かに新しいヒロインなのだと思うし、恋愛を特定の要素だけを取りだして拡大し押し込んでいく松浦理英子の作品は、何物にも代えがたいと思う。 次の作品は、5年後、くらいには読めるのでしょうか。

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