作品情報
人格を使い分けて世界を渡る空子の前で、愛玩物だったピョコルンはやがて人間社会そのものを組み替える存在へ変わっていく。
第78回野間文芸賞受賞作。2025年3月に集英社から上下巻で刊行され、上巻・下巻はいずれも四六判432ページ。上巻では、空子が年齢と場所ごとに人格を作り替えながら、ピョコルンとラロロリン人をめぐる世界のひずみへ巻き込まれていく。下巻では「リセット」後の社会で、出産、育児、介護、性、労働を代替する仕組みが整ったかに見える世界を舞台に、より静かで不気味な形の搾取と幸福が描かれる。集英社公式ページでは紙版に加えてデジタル版とオーディオブック版の刊行も確認できる。
レビュー要約
-
高い評価。不快さや生々しさを強く意識しながらも、現代社会を歪ませて映すスケールと上巻終盤の推進力が支持されている。
-
賛否両論。完結巻として社会の再編、女性性、消費される身体、記憶の操作を描き切った重さが語られている。読後感は重いが、強い余韻を残す作品として受け止められている。
-
賛否両論。耐えがたさを伴いながらも読み切らせる力、社会の残酷さを直視させる強さ、消化しにくいが忘れがたい余韻に反応が集まっている。
書籍情報
- 出版社
- 集英社
- 発売日
- 2025-03-05
- ページ数
- 432ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 13.4 x 3 x 19.4 cm
- ISBN-13
- 9784087718799
- ISBN-10
- 4087718794
- 価格
- 2420 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
【第78回野間文芸賞受賞作】 【BSテレ東 第2回あの本、読みました?大賞 第1位】 【キノベス!2026 第1位】 小説というものの輪郭が、いわば地球を覗く窓の形が、本書によりまた大きく更新されました。 それはつまり、この本の中で初めて寛げる人がいるということです。 救済と爆弾は同じ姿で在れるのだと気付かされました。 朝井リョウさん(作家) 本当は貴方もわかっていたんだろう? と迫る声が脳内に鳴り響く。 熱に浮かされるようにページを捲る手が止まらない。 これは本型ワクチン。 世界99に誘われ、もう元いた場所へは戻れない。 宇垣美里さん(フリーアナウンサー・俳優) 足元の地面がふいになくなり、 正常と異常の境目が消え失せ、目眩がする。 人間という生き物の滑稽さ、グロテスクさ、美しさ、不思議さが、 この本の中にすべて詰まっている。 岸本佐知子さん(翻訳家) 空子がこの世界で体に蓄積する小さな暴力の音とか、風とか、どれも僕の心に刻まれていきました。 物語で一緒に過ごせた時間は、僕の宝です。 ロバート キャンベルさん(日本文学研究者) この世はすべて、世界に媚びるための祭り。 性格のない人間・如月空子。 彼女の特技は、〈呼応〉と〈トレース〉を駆使し、コミュニティごとにふさわしい人格を作りあげること。「安全」と「楽ちん」だけを指標にキャラクターを使い分け、日々を生き延びてきた。 空子の生きる世界には、ピョコルンがいる。 ふわふわの白い毛、つぶらな黒い目、甘い鳴き声、どこをとってもかわいい生き物。 当初はペットに過ぎない存在だったが、やがて技術が進み、ピョコルンがとある能力を備えたことで、世の中は様相を変え始める。 3年以上にわたる著者初の長期連載がついに書籍化。 村田沙耶香の現時点の全てが詰め込まれた、全世界待望のディストピア大長編! 【著者略歴】 村田沙耶香 (むらた・さやか) 1979年千葉県生まれ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。2003年「授乳」で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。2009年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島賞、2016年「コンビニ人間」で芥川賞受賞。著書に『マウス』『星が吸う水』『ハコブネ』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』『生命式』『変半身』『丸の内魔法少女ミラクリーナ』『信仰』などがある。
レビュー
-
いい
いい
-
母親=奴隷
あー、なんかこの本読んだら未婚が増えるし離婚も増えるんじゃないかなーって気がしました。 架空の世界の日本のようでいて、実際賞味期限過ぎてからも家事労働も性欲処理もさせられてるのって母親だもんね。 男性たちは女性を使役してるの気付いてないよね。
-
最も静かで残酷な世界
村田沙耶香作品の中でも、最も静かで、最もグロテスクな一冊だと感じた。 舞台は、差別や暴力が排除されたとされる「クリーン」な未来社会。しかし読み進めるうちに、その清廉潔白さが実はとてつもない欺瞞の上に成り立っていることに気づかされる。 特に戦慄したのは、この世界における「女性の役割」の扱いだ。 表向き、女性は産む苦しみや性的な役割から解放されている。しかし、それは男性優位社会が反省したからではなく、「ピョコルン」という別の生き物に、かつての男尊女卑的な欲望(性欲処理、家事労働、生殖)をすべてアウトソーシングしたに過ぎないからだ。 「人間には人権があるから殴ってはいけないが、製造された生物なら愛でるも犯すも自由」。この構造は、現代社会が抱える「見たくないものを不可視化して成り立つ平和」の究極系であり、洗練されたミソジニー(女性蔑視)の最終形態と言えるだろう。 主人公・空子が最後に選んだ道は、一見すると破滅に見える。だが、自分の「記憶(=個としての歴史)」を差し出し、思考停止した愛玩動物へと堕ちるその姿は、ある種の「悟り」のようにも映った。 自我という幻想にしがみつき、複雑怪奇な社会で摩耗するくらいなら、いっそ人間を辞めてしまったほうが幸福なのではないか。 読後、自分の生きている現実世界の床が抜けたような感覚に陥る。傑作。
-
心は疲れるが
まず上巻だけ読み終えました。純文学はどことなく読みにくいものと思っていたので、今まであまり手にとることはなかったです。ただ、これは一気に読めました。読んでいると心が沈んでくる感覚をとても感じながらも、手は止まりません。事象に対しての主人公の距離感が丁度いいんですね?わかりませんが。
-
三連休初日に読んでからこの本以外の連休の記憶がない
三連休初日、しまなみ街道をサイクリングしようと一人旅にでかけ、この本に出会ってしまい深夜までかけて一気に読みました。その後はずっとこの本について考えていて、三連休の記憶は無くしました。物価高で単行本も高いけれど、この本に限っては「この世界をこの価格で体感できていいんですか?」と思いました。迷っている人は絶対に買ってほしい
-
濃いぃ~~内容で御座いました。
何時もの事ではありますが、相も変わらずとても濃いぃ描写で御座いました。
-
村田沙耶香さん、あなたのことですから、ピョコルンになる覚悟はとっくにできているのでしょうね!
いつの世か定かではありませんが、「恵まれた人」、「クリーンな人」、「かわいそうな人」という階層に分かれた人間と、ピョコルンという家畜が日常生活を送っています。人間には、オス(男)とメス(女)、そして、優秀なラロロリンDNAを持つ「ラロロリン人」と、そうではない「非ラロロリン人」という区別もあります。国外に対しては「ウエガイコク」と「シタガイコク」という区別もあります。 こう言われてもわけが分からないと思いますので、『世界99』(村田沙耶香著、集英社、上・下)の上巻の第2章から、一節を引用しておきましょう。 「肉体がある家電である私(=空子)は、掃除、洗濯、料理などを請け負っている。ピョコルンは、性欲処理と、出産をするための肉体家電だ。家事だけでも身体はぼろぼろだったが、この身体が性欲処理に使われることはない、ということは、私をとても救っている。ピョコルンが飼えるような、富裕層の家電になれてよかったと思う。明人(=夫。ラロロリン人)の部屋の中から、微かにピョコルンの喘ぎ声が聞こえる。明人の声も途切れ途切れに聞こえる。・・・私は明人の性欲処理の邪魔をしないように、部屋で息をひそめている」。 そして、第2章の最後で、驚くべき事実が明らかにされます。ピョコルンは人間のリサイクルだったのです。 下巻の第3章からも引用しておきましょう。「ラロロリン人は、生きている間『恵まれた人』として、得をしながら楽に人生を送り、裕福な暮らしをする人がほとんどだ。その分、死んだ後はピョコルンにリサイクルされて、生きている人間の性欲のゴミ箱になり同時に子産みマシーンになる。本当に公平なシステムだなあ、と思う」。 「音ちゃん(=空子がマネジャーをしていた仕事場でアルバイトとして働いていた女性。ラロロリン人)は当たり前のようにピョコルンを人間扱いせず、性欲処理と出産と家事のための家畜として扱っている」。 年老いて病院に入院して、ほっとした様子の母。「母は私の家の家畜だった。何十年かぶりに、やっと、誰からも『使用』されない状態になったのかもしれなかった」。 非ラロロリン人のピョコルン化も可能になったと、音ちゃんに上手く説得されて、49歳になった空子はピョコルンになる手術を受ける決意をします。「『あのね、今年の夏、私、人間じゃなくなる。ピョコルンになる。ええと、まだ本決まりじゃないんだけれど』」。 村田沙耶香さん、これほど背筋がゾクゾク・ザワザワする世界を描き出す才能に「恵まれた人」であるあなたのことですから、あなた自身がピョコルンになる覚悟はとっくにできているのでしょうね! 「かわいそうな人」で「非ラロロリン人」である私(=榎戸)のレヴェルでは、これ以上の紹介はできません。そこで、このとても書評とは呼べない代物を書き上げた段階で、私より遥かに賢いChatGPT5に「『世界99』の書評を280字でお願いします」とお願いしました。1~2秒のうちに、「『世界99』は、現代の不安定な世界情勢を99の切り口で読み解く試みです。経済・政治・環境・技術といった多様な領域を横断し、グローバル化の功罪や分断の深まりを軽妙かつ鋭く論じています。数字とエピソードが緻密に組み合わされ、複雑な問題も直感的に把握できるのが魅力。大局的な視点と具体的な事例が交錯するため、知的刺激に満ち、読者に『次の世界像』を考えさせる力を持った一冊です」という回答が示されました。うーん、私には難し過ぎて、よく分からないなあ。
-
きれいな状態を期待していたので残念
新品として購入しましたが、届いた時点で表紙に大きな傷と帯の破れがあり、内容自体はこれから読むのが楽しみですが、状態には注意が必要かもしれません
関連する文学賞
- 野間文芸賞 第78回(2025年) ・受賞