作品情報
浦安の日々の小さな記録が、晩年の作家の身体感覚と文学の時間を静かに映し出す。
『浦安うた日記』は、大庭みな子の生活と創作の時間を重ねた日記文学。浦安で過ごす日々を通じて、家族との関係、病や老いの実感、読書と記憶が繊細に記される。
レビュー要約
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大きな事件よりも日々の感覚を積み重ねる読み味で、作家の晩年の息づかいに触れられる。静かな記述の中に、身体の不安と文学への執着が残る。
書籍情報
- 出版社
- 集英社
- 発売日
- 2002-06-01
- ページ数
- 282ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784087753035
- ISBN-10
- 4087753034
- 価格
- 1175 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
人並みはずれた聴覚を持つ男。彼は自分を殺そうとした相手をつきとめるため、ある女を探そうとする。彼女の残した「音の記憶」を頼りに。ファンタジーとハードボイルドの融合! 書き下ろし長編。第56回日本推理作家協会賞「長編および連作短編集」部門 受賞。
レビュー
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スプーンで部屋の過去を覗く男
いろいろなところで(例えばSTUDIO VOICEの2000年代小説100冊には同じ作家の『ぬ』が掲載)紹介されているホープらしいので読んでみたのだが、つまらない。 楽器修理職人立花は、引っ越した日に交通事故に遭い、そのあとから異常に聴覚が鋭くなる。常人では聞き取れない音や、部屋に残された音(「残り香」ならず「残り音」だね)を感じ取れるようになり、あちこちをたたいて残音を確かめると、どうも前に住んでいたのが細身のきれいな女らしいことが分かる。その女は不動産屋の話によると失踪してしまったらしいのだが、立花はその女の行方を探り始める、という話。 まあ、21世紀に古いテーマの「人探しハードボイルド」を書こうと思うとこれくらいの斬新な設定が必要なのかもしれないが、斬新ならよいというものでもない。こんな妄想だけで前の住人の女を一所懸命追跡しようとするのがうさんくさい。また、「残音」を感じ取るやり方は、スプーンであたりをたたいて残響に耳を済ませる、っていう設定なのだが、これも何とかならないものか。せめてスプーンじゃなくて楽器関係の道具にするとかね、もうちょっとイカシタ小道具があったと思うな。 あと、比喩表現が手抜きとしか思えない。 <エアコンは腰を痛めた老婆のように仕事場で空気を吐き出すたびに溜息をついている。> <なにかが立花の頭の中でささくれだっていた。喉に刺さった小骨のように、気になって仕方のないなにかが脳裏にある。> <白い下着の胸と腰は硬そうな印象。特に胸はゴムボールみたいにまん丸。> こんなクリシェを小説で読みたいだろうか。今時分、ノンフィクションでももう少しかっこいいレトリックに出会える。
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音の記憶そして
賃貸の部屋に住む人ならばどこかしこに先住者の気配を感じたことがあるだろう。 本書では部屋に残る音の記憶をたどり自分の巻き込まれた事件と女をたどってゆく。 立花は事故により異常な聴覚を得た楽器の修理者である。 精緻な音の表現にくらくらさせられながら物語りは核心に近づいてゆく。 音の表現はとてもすばらしかったのだが,結末に?がついたので星は3つ。
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なんたる小説!
2002年に出た単行本の文庫化。 この人の作品はユーモア・ミステリしか読んだことがなかった。本書を読んでびっくり。こんなに真っ当な「実験小説」を書く人だったとは。 本書のテーマは「音」である。ちょっとした事故で聴覚が鋭敏になってしまった主人公。ただ耳がいいというだけではなく、場所やものに蓄積された「過去の音」をも捉えることが出来るようになったという、驚きの設定である。 そして、彼の耳(や目)に響いてくる音の世界の不思議さといったら! 文章、比喩表現、展開に工夫があり、めくるめくような「音」に圧倒される一冊であった。 ひたすらそこを味わいながら読むべき小説。異様な読書体験となること間違いない。 残念ながら、ミステリとしてはまったく評価できない。
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歴史に残る凄まじい小説!
聴覚が異常に発達した男のミステリ。その聴覚から見えるものの描写(比喩)の質と量が半端じゃない。奇蹟的。似たコンセプトの話に「カニスの血を嗣ぐ」があるが、あちらは最後盛り上げてくれたのだが、こちらはそういう意味ではいまいち。 だが、この比喩たっぷりの文章を読むだけでも繰返し読みしたくなるから日本推理作家協会賞受賞も文庫化も大変嬉しい。是非「カニスの血を嗣ぐ」も文庫化してほしい。 歴史に残る凄まじい小説には間違い無し!買って絶対損は無いと思う。
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イメージの洪水
あらゆる音が鮮明かつ明確に聞こえてくるだけでなく、その音が脳内で視覚化して、そして、触覚化したとしたら、どうなるのだろう? その描写が見事で、読んでいる側も音と光のイメージの洪水に溺れそうな錯覚を感じます。 そして、そのような特異な感覚を持った登場人物がその能力をフルに活かして、犯罪事件に対峙していきます。 また、部屋や場所が音の記憶を持ち、その記憶は再現可能であり、音の発生源を特定できる、という発想が見事です。 人間の持つ孤独感・欠如感が、その独特なイメージの中で、際立ってきます。 文章に描かれた一つ一つのイメージを膨らませながら読むと、この本の面白さ・恐ろしさが倍増することでしょう。
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異色であり技巧的であり
カバーに書かれているファンタジーとハードボイルドの融合 とはよく言ったものです。ギターに奏者の癖がつくように、 部屋にも住人の癖がつく。その癖を聴覚によって読み取って いくという発想がまず素晴らしいです。 さらに、視覚化された音を文章化するという困難に挑戦され ております。 最初はイメージしにくいものの、徐々に風景が見えてくる のですから不思議です。現実には有り得ないのにリアルに感じ られるのは、この挑戦が見事に成功している証でしょう。 物語のテンポも良く、一気読みできる良い作品ですが、逆に 感覚的な描写が鼻につく方もおられるかもしれません。
関連する文学賞
- 紫式部文学賞 第13回(2003年) ・受賞