世界で一番売れている薬
コレステロール低下薬スタチンの発見と開発を、遠藤章の研究人生を軸に描くノンフィクションです。創薬の現場、企業との攻防、医学を変えた発見の意味をたどります。
作品情報
一つのカビから始まった探索が、世界の医療を変える薬へつながります。
高脂血症治療薬スタチンの誕生を、研究者の執念と製薬ビジネスの現実から描きます。実験、治験、企業間の駆け引きまでを追い、科学的発見が社会へ届くまでの長い道のりを示します。
書籍情報
- 出版社
- 小学館
- 発売日
- 2006-12-15
- ページ数
- 258ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784093897006
- ISBN-10
- 409389700X
- 価格
- 2750 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
第13回小学館ノンフィクション大賞受賞作 2006年の小学館ノンフィクション大賞「優秀作」を受賞した本作は、高脂血症治療薬「スタチン」を開発した遠藤章博士の半生記である。約6000種類の菌類の試験から、ついに目的の物質「ML—236B」を開発したが、会社の無理解、同一物質を発見したとするライバルの登場、特許をめぐる日米の障壁と商品化までに多くの曲折があった。現在世界で3000万人がこの薬を飲んでいるといわれる。最近、日本人の食生活の変化により、メタボリックシンドロームの危険性が叫ばれているが、心臓病や脳卒中による死亡リスクを3分の1にまで減らしたといわれるこの薬がなければ、もっと大変な事態になっていたのは間違いない。
レビュー
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スタチンは安全なのか
新薬を発見・開発するのは、とてつもない努力の連続なのだとわかる良書。 そうした地道な努力の末に幸運の女神が遠藤章博士に舞い降りた。 新薬の発見、治験、販売となると、製薬会社どうしの熾烈な闘いがあるのも事実だ。 そうしたどす黒い部分も描かれている。 スタチンと総称される高脂血症治療薬は20年前の時点で、約3兆円の市場規模というから驚く。 今、某社の紅麹問題が起きているが、スタチンが何らかの悪影響を与えてはいないか懸念される。
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高脂血症治療薬にまつわる開発物語
メバロチンは、高脂血症治療薬であり、 三共(現・第一三共)のドル箱といわれた薬であることは良く知られている。 しかし、その開発の立て役者・遠藤章のことは、あまり大きく扱われてこなかった。 ここにスポットを当てたのが、本書である。 遠藤の生い立ちや、開発者としての成長の過程。高脂血治療薬の開発の過程。 そしてその中で、明かされるメルク(米国・大製薬会社)との駆け引き、の数々。 また、三共内部での遠藤の微妙な立場と開発の紆余曲折。 三共が、もっと大きな会社になっていたかもしれない、機会損失。 また、遠藤自身ももっと賞賛されて良いはずなのに・・・。 (この関連で、ノーベル賞受賞者が生まれている) そんなことが、つづられている。 著者の意図とは異なるかもしれないが 世の中に役に立つ成果を出しながら、それほど報われず、でも、それでよし、とする心持ちがすがすがしい、と思う。
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突然死の恐怖を避けるために
本邦においても高脂血症の患者は3、000万人にのぼり、このうち8割は未治療と言われている。高脂血症による動脈硬化症は「サイレントキラー」と呼ばれており、自覚症状を伴わず、徐々に進行していくため、心筋梗塞、脳血管障害等を突然発症し、落命してしまう場合がある。現在社会においては、カロリー摂取過多の要因に加えて、残業過多による夕食の摂取時間の遅延化、仕事によるストレス増加等、避けられない危険因子も存在する。 食事療法、運動療法によって血中コレステロール値が正常にならないと医師によって判断される場合は服薬治療を実施しなければならないが、そのために主に使用されているのが、メバロチン、リポバス、リピトール等のスタチンである。これらは肝臓でコレステロール合成を阻害することにより、コレステロール値を低下させる作用を有する。 そしてつい最近(本年4月18日)のことであるが、「ゼチーア」が厚生労働省から高脂血症治療薬として承認を受けた。この薬剤は、スタチンではないが、小腸でコレステロール吸収を抑制する新しい作用機序を有している。 このように高脂血症治療及び動脈硬化予防にスタチンを含め多くの選択肢があるのはありがたいことである。
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世界で必要とされるからやること
高脂血症と診断されると、使ってみますか?と決まって医者に勧められる治療薬がスタチン系である。しばらく使うと確実に数値が下がる。そんな薬を見い出したのが、本書の主人公遠藤氏。今や世界中で一番売れている薬の発見者であるが、必ずしも知名度は高くないし、業績の割に経済的にも酬いられているとは言えない。当時所属していた三共の研究所で地道な微生物(青カビ)の培養の中から、苦心の果てに見つけたメバスタチンは高い有効性を示し、製品化へ進んでいたが副作用の懸念があり、三共は開発取り止めを決定する。米国メルク社は、そんなメバスタチンに目をつけ、類縁体を見い出して最初のスタチンの製品化にこぎつける。三共はその後、別のスタチンを製品化するが、その時には遠藤の姿は無かった。 三共の判断も理解できるし、メルクのやり方も当然の戦略である。しかし、最初にスタチンを発見し、その強力な効果を世に出した遠藤氏の業績はもっと評価されても良いと感じた。地道な研究姿勢は、子供の頃からの祖父からの教えに端を発し、Fieser & Fieserの有機化学テキストに没頭した学生時代、そして米国でのテーマの発見と一貫している。 この本は、研究者としてどう生きるかという一つのモデルとなる。単に稼いだり名を売ることだけが目的ではなく、実際に社会に役立つ研究者となることの意義を氏の生きざまが物語っている。
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不遇の科学者に光を当てる良書
世界中の高脂血症で苦しむ人たちを救った薬、それがスタチン。それを発見したのが日本人、遠藤章でした。本書には彼の生い立ちと、彼がいかにスタチンを発見したのか、ということが描かれます。 ところが実は、社内の政治的なゴタゴタでその功績が評価されず、それどころか遠藤が所属していた三共は、遠藤の発見した薬を否定してそれを応用したものを製品化するのです。ですが、結局最初に製品化に成功するのはアメリカのメルク社でした。 本来なら三共が世界で始めて抗高脂血症剤を発売し、先行者利益を確保できたにもかかわらずです。三共は遠藤の警告を無視して、お気楽に海外のメーカーに試料を提供してしまい、かつその際いい加減な契約を結んでしまったため、メルクが遠藤の開発した薬品の組成を少しいじったものの製品化を許してしまうのです。この一件が世界における日本の製薬業界のプレゼンス向上に結びつかなかったこともよくわかりました。 特に遠藤に対する恨みでもあるのか、三共は社史等には遠藤の名前を登場させません。 そんなおろかに見える嫌がらせに、読んでいる方としても腹立たしさを感じつつも、スタチンの薬効のすごさには心底驚きます。 総コレステロール値を下げ、悪玉コレステロール値を下げ、善玉コレステロール値を上げるという、抗高脂血症剤としての薬効はすばらしいものがあります。すごいのはそれだけではありません。心筋梗塞、狭心症などの冠動脈疾患の発生率を33%も低下させ、特に心筋梗塞に限れば48%もの減少が確認されたと言います。また、脳卒中の発生率を3割前後も下げたのです。 しかも副作用は高容量の服用でなければ殆どありません。まさに夢の薬ですね。高脂血症の私ですが、服薬がいやで今まで飲まずにおりましたが、これなら飲んでみようかな、という気になりました。(かなり真剣にそう思います) まあ遠藤氏サイドという点でも、スタチン擁護サイドという点でも一方当事者の言い分なので、簡単にすべてを信じるのは危険ではありますが、一読の価値はある本でした。
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日本人の誇り、新薬開発の貢献者
世紀の薬スタチン。遠藤博士のスタチン発見からすでに三十余年が経っている。この間、各社が少しずつ形を変えて開発したスタチン製剤は、いずれも大ヒット商品となり、世界中で多くの人がその恩恵に与っている。 その元祖である「ML−236B」はどのようにして生まれ、いかなる運命をたどったのか。そしてなぜ、日本で最初に製品化されなかったのか。本書は、それを跡づけたノンフィクションである。 原点はハエトリシメジ・コレステロールとの出会い・障壁・治験・メルクとの攻防、そうした紆余曲折の末、この世紀のスタチン開発となる。 遠藤博士の発見したスタチンは、その分野でターゲットに直接迫る画期的新薬だったのである。今増え続ける高脂血症患者のコレステロールや中性脂肪を低下させ、動脈硬化を防いで、心筋梗塞や脳卒中で死亡するリスクを30%も減少させた。この後もこれに頼る人は絶えることがないだろう。 日本人の誇りである医薬分野での基礎研究。「世の中に役立つようなことを一つくらいはして死んでいきたい」と言う遠藤さん。未知の分野に挑戦し、使命感の強い立派な人として尊敬したい。
関連する文学賞
- 小学館ノンフィクション大賞 第13回(2006年) ・優秀賞