作品情報
洗練された会話の奥で、男女の不安が静かに形を変える。
二十二歳の杉子と中年男の佐々の関係を通じて、欲望、戸惑い、老いへの怖れを繊細に描く長編。都会的な会話の奥に、肉体と精神の距離が冷ややかに浮かび上がる。 受賞時代の文脈を保ちながら、現在の読者にも作品の核が伝わる一冊である。
レビュー要約
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作品の題材や筆致を評価する声がある一方、時代背景や文体に距離を感じる読者もいる。受賞作としての個性は、主題の明確さと語り口の持続力にある。
書籍情報
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 1982-05-27
- ページ数
- 184ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 14.8 x 10.5 x 2 cm
- ISBN-13
- 9784101143118
- ISBN-10
- 4101143110
- 価格
- 506 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
22歳の杉子に対して、中年男の佐々の怖れと好奇心が揺れる。 二人の奇妙な肉体関係を描き出す、野間文芸賞受賞作。 若い男女のパーティに、幾人かの中年男が招かれる。その一人、佐々は会場で22歳の杉子をホテルへ誘う。処女だという彼女は、決して脚を開かせない代りに、オリーブオイルを滴らせた股間の交接、フェラチオ、クニリングスは少しも厭わない。こうして中年男と若い娘の奇妙な愛は展開していく。しかし事の結末は呆気なくおとずれる。 人間の性の秘密を細密に描き上げた一幅の騙し絵(トロンプ・ルイ)。野間文芸賞受賞。 【目次】 一章 公園で 二章 網目のなか 三章 傷 四章 夜の警官 五章 血 六章 すでにそこにある黒 七章 夕暮まで 解説:川村二郎 【本書「解説」より】 別の喩えを用いるなら、ここにひろげられたのは、細密に描きこまれた一幅の欺(だま)し絵なのだ、といっていいだろうか。全体は、一つの風景として、島なら島とまず一目で分る。しかし部分を丹念に見てゆくと、それが島のどこに当るのか、どうしてこれが島の上にあるのか、といったことが一々気がかりになってくる。それは現実と思われたものが徐々に夢に近づくのを感ずる経験にひとしいが、夢といえば、第一章、冒頭の「公園で」が、はっきり夢の情景として提示されていることの意味を考えねばならない。…… ――川村二郎(文芸評論家) 吉行淳之介 (1924-1994) 岡山市生れ。東京大学英文科中退。1954(昭和29)年「驟雨」で芥川賞を受賞。性を主題に精神と肉体の関係を探り、人間性の深淵にせまる多くの作品がある。また、都会的に洗練されたエッセイの名手としても知られる。主要作品は『原色の街』『娼婦の部屋』『砂の上の植物群』『星と月は天の穴』(芸術選奨文部大臣賞)『暗室』(谷崎賞)『夕暮まで』(野間賞)『目玉』等。
レビュー
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笑う韓国人
この小説は私が高校生の頃に刊行されてかなり話題になりました。作中に疑似性交の潤滑剤としてオリーブオイルを用いる描写がありますがこの時代オリーブオイルは大人のお兄さんお姉さんが浜辺で身体を焼くのに使用するものというイメージで食用として用いる家庭は少なかったと思います。 七十年代ごろから断続的に日米農産物交渉というのがあり米国が畜産品やオレンジの輸入を強要してきました。ヨーロッパ(当時はEC?EEC?)もそれに便乗してそれまで禁輸されていた生ハムやナチュラルチーズが入ってくるようになりワインの酒税も引き下げられました(正確でなければ申し訳ありません)。オリーブオイルを用いたパスタなどが一般庶民の口に入るようになったのはそれ以降のことだと思います。 バイクとの接触事故は表の物語と裏の物語が交錯する瞬間として鮮烈ですね。 どちらにせよ当時の空気感や風俗が思い起こされて懐かしさを感じます。
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オリーブオイル
かたくなに処女性を守り抜こうとするヒロインと逢瀬を重ねる中年男の物語。境界線があるようでないようなふたりの情欲の揺れるさまが、研ぎ澄まされた筆致で綴られています。短い会話やさりげない仕草の描写に、その奥に隠されたものの気配を感じ取られることでしょう。語られないことによって、より饒舌さを増すこともあります。たまたまこの本を読む前に団鬼六の小説を読んだのですが、ふたりは性愛へのアプローチの仕方がまさに対極に位置するのではないでしょうか。「動と静」・・・そんな言葉が浮かんできました。
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「やる事はやった」真珠夫人
冒頭の風景描写から、ぶったまげた。これ、誰の視点なんだ? いわゆる「神の視点」とも違う。まるでシナリオのト書きみたいだ。 サラッと読むには向いているが、深読みしてやろうと思ったら、ボルダリングすら不可能なコンクリートの壁が立ち塞がる。 何だかそんな感じ。 この小説の第一章(新潮文庫版で14ページある)では、女の名前が分からない。 男の名前は分かる。女が「佐々さん」と呼び掛けているからである。 この第一章の視点は「『夢を見た』と言う夢を見ている私」みたいな所に置かれているのではなかろうか。 なお、女の名前が杉子だと言う事は「第二章 二」で明かされる。この二人が、食欲と性欲を剥き出しにするシーンでである。 私は映画版を観るのが怖い。佐々=伊丹十三はともかく、杉子=桃井かおりだもんなあ。 ちなみに、映画「夕暮まで」が公開されたのは1980年である。翌1981年公開の映画「ええじゃないか」(今村昌平監督)で、桃井は「江戸時代のストリップ嬢」みたいな役で怪演している。殺しても死にそうにない女の役だった。桃井は、そういう役が板に付く人なのである。こんな人に「中年男に開発される処女」の役が務まるものなんだろうか。 また、新潮文庫版63ページで佐々の「妻」が顔を出したのには驚き呆れた。同じく72ページでは、直子と言う中学二年の娘さんが居る事も明かされる。 これ、一応「不倫小説」だったのか? いや、何をもって「不倫」と定義すべきなのか、頭を抱えてしまった。 どこから、どこまでが「不倫のストライクゾーン」なのか知らないが、「女の体型が変わってしまう」ような事はやっているのだ。男の言い方を借りれば「結局、どうなったって、他人同士」の「猥褻な関係」である。(新潮文庫版98ページ)これじゃ、カミサンに「女を買うのも浮気のうち。風俗浮気だ」と叱られる方が、遥かにスッキリする。 ここで挙げるのは場違いかもしれないが、菊池寛の元祖ドロドロ系メロドラマ小説『真珠夫人』の事を、ふと思い出した。「こじらせた処女崇拝の犠牲者」と言う意味では、杉子も、マダム・パールこと壮田瑠璃子も、同じ土俵に立たされているのではなかろうか。 まあ、壮田瑠璃子は「処女のまま死んで、周囲は『なぁんだ』とシラケる」という最悪のエンディングを迎えるが、杉子の方は「やる事はやった」のだから「めでたし、めでたし」と言うべきなんだろう、多分。 なんだかクサし過ぎた。以下では誉めよう。いや、誉めるよう努めよう。 本作は、どことなく現代詩と似ている。この透明で硬質な一枚ガラスみたいな雰囲気が。単語ひとつで百のイメージを励起させる削り込んだ言葉選びが。 セックスの最中に女の品定めをしているようなシーン(新潮文庫版157~158ページ)でも、余りいやらしさが無い。(私は今、渡辺淳一を念頭に置いて物を言っている。)猥褻自体ではなく、猥褻と言う観念について書いているように感じる。それが、どこから来るのか、私には未だ分からないが。 もしかしたら「物凄く読みやすい前衛小説」なのでは、なかろうか? 「『虚人たち』を代表とする筒井康隆の前衛小説にも似ているような気がする」と言ったら、吉行ファンにも筒井ファンにも怒られそうな気がする。 「小林秀雄『青の時代』の問題作『女とポンキン』にも似ている」と言ったら、小林秀雄ファンも、まるごと敵に回しそうである。 もしも本作のマネっ子して新人賞に応募したら、下読み段階でハネられそうだ。「人物の掘り下げが足りない」と言ったコメントを付けられて。 まあ、私の評価はともかくとして、こんな凄い人の小説をパススルーしていた我が身の不明は恥じなければならない。 以下は蛇足ながら、この小説の漢字カナ遣いは独特で興味深かった。 たとえば「しているところなの」「お出かけなの」「そう、なぜかな」「そうおもいながら」(新潮文庫版72~73ページ) これらを「して居る所なの」「お出掛けなの」「そう、何故かな」「そう思いながら」と表記していたら、別の小説に成っていたかもしれない。 その反面、交通検問で自分を取っ捕まえた警官の事は「小柄で顴骨(かんこつ)の目立つ顔立ち」と形容している。「ほお骨のはった顔だち」と言った柔らかい表現はせず、字画からしてゴツゴツした「顴」と言う難字を当てているのである。そう言えば「縺」「躇」「跼」「躙」と言ったメンド臭い漢字を、時々ポンと使うのである、この小説は。 こうした言葉選びと言う点でも、良い勉強に成る小説だった。
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オリーブオイル
オリーブオイルがこのように使われるとは予想できず、序盤からびっくりしてしまいました! 色んな用途に使えるとは知っていましたがここまで汎用性が高いなんて。もうオリーブオイルを普通の目で見ることができません! いつか好きな人のスーツの内ポケットからオリーブオイルの小瓶が出てきたらどうしようかと思うと夜も眠れません。
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興味ない !
これも 何かに書いてあったので 読んでみたいと 思っただけです。 面白くない。
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処女厨の男女のお話
処女厨の処女と処女厨の中年オヤジの不倫のお話。 こう書くといかにも通俗的だが、通俗に堕することなく小説として仕上げられるのは吉行淳之介ならではの筆力
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思い出の本です。
20代の頃読んだ本です。最近になって内容がよく思い出せないので、探したところ、見つかったのですぐ読みました。あの頃とは違った感じがしました。文学的と言えるのではないでしょうか。
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漂うニヒリズム
不倫の相手である杉子は二十歳を過ぎたばかりの良家の子女。主人公佐々と性的関係を持つが結婚までは処女にこだわる。佐々は幾度もその牙城を突破しようと試みるが執拗な抵抗に遭い思うように進まない。このきわどい平衡は1年半も続くが或るとき若い男があっさりと彼女の処女を奪ってしまうことで終わりを告げる。 妻子或る中年男と良家の子女との間に生じた性的関係を通して、不毛の性愛の彼方に漂う男女の関係を乾いた感性で描いた意欲作。7編の短編で構成された長編だが完成までに13年の歳月を要したことを思うと彼の私的小説ともいえる。
関連する文学賞
- 野間文芸賞 第31回(1978年) ・受賞