花に埋もれる
『花に眩む』は、憧れや執着が恋に似た感情へ変わり、現実の輪郭まで揺らしていく短編です。華やかな花のイメージの中に、欲望のまぶしさと危うさが同時に描かれます。
作品情報
花のまぶしさの奥で、憧れと執着が恋に似た感情へ変わっていきます。
彩瀬まるのデビュー作で、短編集『花に埋もれる』に収録されています。身体や感覚が変容するようなストレンジフィクションの手触りを通じて、恋愛の手前にある強いまなざしを描きます。
書籍情報
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 2023-03-17
- ページ数
- 208ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 19.1 x 13.3 x 1.9 cm
- ISBN-13
- 9784103319658
- ISBN-10
- 4103319658
- 価格
- 1760 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品
この想いを知ったなら、同じ身体ではいられない。著者の原点にして頂点! 憧れと畏れが幻想を呼び寄せる、緻密で繊細な作品集。「女による女のためのR-18文学賞」受賞作「花に眩む」を含む6篇を収録。
レビュー
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買って良かった。
大変、良かった。不思議なお話。
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これまで女房にも内緒にしてきたが、私は奇妙な皮膚感覚の持ち主です
これまで女房にも内緒にしてきたが、私は奇妙な皮膚感覚の持ち主です。皮膚にできた袋状の窪みに、本来そこにいるはずのない小さな生き物がびっしり詰まって蠢いている状態を思い描くと、身悶えするほどの興奮を覚えるのです。 こういう私の秘密を知っているかのような短篇に出くわしました。短篇集『花に埋もれる』(彩瀬まる著、新潮社)に収められている『マイ、マイマイ』が、それです。 「立ち上がった鈴白くんの体から白っぽいものがこぼれた。座布団の上にぽたんと落ちる。平べったいおはじきみたいなそれは、つるつるした表面に薄く渦巻きみたいな模様が浮かんでいた」。 「白々とした朝の光に目を覚ますと、枕元には見覚えのある渦巻き模様のおはじきが転がっていた。鞄から出した記憶なんて、ないのに」。 「机の上のスマホの隣に置いて寝たはずなのに、白い渦巻き模様のおはじきはベッドの足下に落ちていた。おはじきは夜中にしょっちゅう位置を変える。まるで生き物のように。生きて、いるのかもしれない。だって明らかに奇妙だ。そして、鈴白くんと繋がっている」。 「膝を曲げ、手探りでかりかりと足首を掻くうちに、ずぶっと人差し指の先が自分の皮膚に埋まった、ぎゃあ! という悲鳴を飲み込みながら跳ね起きて、恐る恐る確認する。指の第一関節までが、足首の裏側の、かかとへ向かう太い骨と筋肉のあいだの柔らかい部分に食い込んでいた。え、なにこれ。・・・そこには縦四センチほどの、細長い割れ目があった。傷、というわけでもない、ただの肉の割れ目だ。・・・中にはわずかな空間がある。まるでなにか、小さなものが入っていたみたいな。かかとのすぐそば、波だったシーツのくぼみに平べったいものが落ちていた。白くて丸い、表面にうっすらと渦巻き模様の浮いた、光沢のあるおはじきっぽいもの。鈴白くんのものよりも少し小さな、十円玉サイズのそれをつまむ」。 「視界の端で動くものがあった。渦巻き模様のおはじきが二つ、私のトートバッグの内ポケットから這い出して、蜂蜜が流れるのと同じゆるやかな速度でフローリングを進んでいる。薄い光を放つそれは、白いカタツムリだった。・・・大きいカタツムリは眠っている鈴白くんの体へ、小さなカタツムリは私の方へとにじり寄ってくる。この子らは、弾き出された肉体へ帰りたいのだ」。 同病(?)の彩瀬まるに、もっと早く出会いたかったなあ。