作品情報
幸福な親子の時間。消えゆく命の灯火。多視点で鮮やかに描かれる、名もなき家族の肖像。
第52回新潮新人賞受賞作。『息』に併録された中篇で、父と息子を中心に家族の肖像を静かに掘り下げる。2023年刊『息』の収録作として読める。
書籍情報
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 2023-05-31
- ページ数
- 224ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 18.8 x 12.7 x 2 cm
- ISBN-13
- 9784103550419
- ISBN-10
- 4103550414
- 価格
- 2090 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品
息をひとつ吸い、またひとつ吐く。生のほうへ向かって――。 喘息の一息一息の、生と死のあわいのような苦しさ。その時間をともに生きた幼い日の姉と弟。弟が若くして死を選んだあと、姉は、父と母は、どう生きたか。喪失を抱えた家族の再生を、息を繋ぐようにして描きだす、各紙文芸時評絶賛の胸を打つ長篇小説。新潮新人賞受賞作「わからないままで」を併録。注目の新鋭による初めての本。
レビュー
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その後を生きる
姉の死を「扉の前に荷物がたくさん積んであって、それをなくすことはできないけれど、別の場所に動かさないと前に進めない。それに近い」と小池さんが語っているインタビューをみた。創作がもたらす力を感じた。
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喪失感というもの
表題作の「息」について記す。 主人公の独身女性は喘息持ちで、両親は健在。たった一人の弟がいたが、何年も前に自殺している。 彼女の仕事はイラストレーターで仕事は順調だ。かつて弟の交際相手だった出戻りの女性がいるが、その父親が営む内科医院は家族皆のかかりつけ医でもある。 喘息の症状が出て苦しい時期に、彼女は実家を訪れる。そして、弟の彼女だった医院の娘と再会する。 娘から交際中の弟の様子を聞いて、自分の知らない弟の人生を覗く事ができた。 一方、父親は誰にも気づかれないまま、薬物依存症になっていて、自殺未遂を起こしてしまう。 母親の機転と小川医師親子の助けで、父親は助かり、発作を起こした主人公も助けられる。 あらすじを書けばこのようなものだが、読了して思うのは、弟や息子を失くしたという喪失感はなかなか拭いきれるものではなく、人は、特に家族はいつまでも苦しむという事だ。 それと、喘息発作という、精神状態とも密接な関係をもつ病いの危うさだ。自分もかつて喘息で苦しんだので、その気持ちはよく分かる。 喪失感については、家族を、特に子供や妹や弟などを亡くした場合にはいつまでも引きずるものなのだろうと思う。経験しないに越した事はない。 著者の静謐なタッチは心に沁む。妙に情緒的になり過ぎるのでもなく、上手く描いていると思う。 著者を知ったのは、「こんにちは、母さん」という映画をノベライズした作品でだが、その作品がよく書けていたので、他の作品も読みたくなって手にした。 派手さはないが、こうした佳品が多く生まれる中でこそ、文学は花開くのだろう。
関連する文学賞
- 新潮新人賞 第52回(2020年) ・受賞