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河岸忘日抄

読売文学賞

河岸忘日抄

堀江敏幸

異国の河岸に係留された船で暮らす人物の時間を、静かな筆致でたどる長編小説。移動しない船の上で本を読み、訪問者と語り、日を忘れるように過ごす日々が、停滞の豊かさとして描かれます。

時間異国孤独

作品情報

河岸忘日抄は、堀江敏幸の作品世界を端的に伝える一作です。

異国の河岸に係留された船で暮らす人物の時間を、静かな筆致でたどる長編小説。移動しない船の上で本を読み、訪問者と語り、日を忘れるように過ごす日々が、停滞の豊かさとして描かれます。

書籍情報

出版社
新潮社
発売日
2005-02-26
ページ数
317ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784104471034
ISBN-10
4104471038
価格
2380 JPY
カテゴリ
本/文学・評論/文芸作品/日本文学

第57回(2005年) 讀賣文学賞小説賞受賞

レビュー

  • 素晴らしい

    大好き

  • 日常の微小な変遷が物語の主軸

    読み終えた後しばらく考え、末尾にある鷲田清一氏の解説を読んで、初めて帰結をみた気がしました。小説というよりはエッセイ、哲学書にも似た感覚を覚えます。もし物語の起伏や爽快な結末を求め読んだとしたら、見事に肩透かしを食らうでしょう。実際私がそうでした。しかしながら、それはつまらなかったからではなく、この小説を読む姿勢が幾分かずれていた為です。新幹線の中で斜め読みをするような暴挙はせずに、もう少しだけ腰を据えて心情披瀝を汲み取り、些細な日常の描写を感じ取りながら読んでいれば、もっと面白い作品だったはずです。 駄文が過ぎましたが、この本自体は読者を選ぶような難解なものではありません。物語は、係留されている船の上での日常を繊細に切り取り、別物語も織り交ぜながら進んでいきます。主人公をはじめとする登場人物も躍動はなく、あくまで船のゆらめきに則しているようです。 最後に、私は作中の空を曇天に感じましたが、皆さんはどんな空を想像されるのか楽しみです。

  • フランス文学を読んでいるような。

    素晴らしい文章で埋め尽くされている長編小説です。 饒舌とか、ありきたりとか、言葉に溺れているとか 常套などは感じさせない洗練された言葉の選択と 配列はなるほどそう分析するのか、と感心します。 ページを繰る度に今度はどんな社会を観る眼を 展開してくれるのだろうかとわくわくする。 読んでいるうちに “そうかあ〜、そうだよねえ”と自分を弁護する? いやいや腑に落ちるという快感が居心地を良くする。 毎日、この堀江ワールドに浸るのが快感になってくる。 フランスのとある河岸に繋留されている船の持ち主 と知り合いだったことから、思わぬ展開でこの船に 住み着くことになった彼。 自分と他人、自分と社会、自他を分けるいろいろな 要素をこの船の持ち主や時折手紙をくれる枕木さん という人物とのおしゃべりの中に哲学的な分析を 柔らかい日常の言葉で分析していく。 そして、もうひとつ、その章ごとに出てくる文学 を横糸にして紡いで行くこの見事さ、心地よさ。 ディノ・プッツアーティの《K》という本では 人生に、困難に、畏れ続けることの愚かしさを。 クロフツの《樽》という本ではその樽をめぐる 話しをこの船の大家がこの樽を扱う仕事だった ことから樽にまつわるエピソードがどんどん 描かれる。 そんな重い樽をどうやって運ぶのかという質問に 大家はバカだなころがすのさと応えるあたりは ハッとしました。 樽というものが今では日常的なものではない ことで、無関心になっていることからくる無知。 堀江さんはこういう物に対する、特に古いもの に対する眼が深くてやさしいですね。 彼の“もののはずみ”はそういう眼で描かれています。 チェーホフ全集の中の《スグリの木》では幸せは どういう状態ですか?という質問に大家が応える。 わからん、しかし、幸せなるものを待つ権利は、 私にだってあるはすだ。 こんな風に彼が思い出す本を取り上げていくその 中で生きることの意味をさがす過程が実に面白い。 余命幾ばくも無い大家が彼に言います。 “いいか、きみはまだ若いほうに属する人間だ、 けっして大勢にはつくな、多数派に賛同するな、 たとえ連中が正しくともだ、こいつは屁理屈 なんかではない、数が多いというだけで、それは まちがっているからだよ。” 誰かに似ているなと思ったら、あの安曇野在住の 作家の丸山健二さんに似ているとおもいました。 しかし、堀江さんのほうが、柔らかい眼で社会を 観ている分だけ、心地よいですね。 これは小説というより、哲学に近いと思います。 何度も読み返す本の中の一冊ですね。 一回だけではもったいない。そして、この中に 取り上げられている本も読んでみたいと思いました。

  • 欠如する運動

    膨大なデータベースと人工頭脳を持ったロボットは、 人と同じく生きることができると考えていた。 アトムやドラえもんのようなロボットが生まれると。 だが、膨大なデータベースを処理するため、ロボットは数十分かけてたった1歩歩いただけだった。 欠如したもののために人は動き続ける。 彷徨い続ける。すでに手にした欠如のために人は生きているのではないだろうか。 強い弱さのために、人は動き続け、彷徨い続けている。 トライアスロンの表現は、思わず「わー」と声を上げてしまいました。

  • 繋がれた船に住みついて自分ひとりの世界に沈潜する「彼」の心に映りゆくよしなしごとを書き付ける

    〇 はじめて読んだとき100ページ余りで放りだしたのは、たぶん同じ著者の『雪沼とその周辺』のような物語を期待していたからだ。あらためて著者のとりとめのない独り言に付き合う覚悟で読み直したら雪沼とは違う味わいがあってするするとページが進んだ。 〇 内容はとりとめのない断片の連続で、船を訪ねてくる郵便配達夫のこと、読んだ本の内容、大家とのやりとり、室内の家具のこと、昔の記憶などなど、本来ならば親しい人とゆっくりとくつろぐ時にぽつりぽつりと話すにふさわしい話題ばかりだ。頭のなかに誰にも知られずに生起したささやかな発見や感動をすこし大仰な言葉を交えながらこうして活字にするということにどんな意味があるのだろうか。この世のどこかにわたしの話に共感してくれる人がいるかもしれないという慎ましさを見るか わたしの脳内で起きたことは多くの人にとって関心事であるはずだという陶酔を見るか 著者の人となりを考えれば前者に違いないのだが、後者もまとわりついてくる、そんな思いが湧きあがる物語だ。 〇 「現実に向きあい、ときにはそこに加担し、ときにはそこから退く技を、ひとはしばしば処世術を呼ぶ。他者にたいする善意の目配せをつねに目配せだけに終わらせ、自分を追いつめないこと。そういう身のかわし方がこの流派の最良のかたちだとするなら、彼はそこからもっとも遠いところに立っていた」・・・主人公の「彼」はこんな人で、著者その人ではないとしても、著者がこの人に限りない共感を覚えていることはまちがいない。 〇 世間ってむずかしいですよねと距離を置き、そこに生きる俗物をひそかに軽蔑しながらわたしにはとてもマネできませんとひとり清らかな世界に籠ってしまうインテリ。そうした生き方にはまったく共感しないけれども、そういう境遇に浸ってみたいという思いも消し去りがたい。そんな矛盾を感じながら楽しんだ。 〇 そう実はなかなか楽しめるのだ。「とりとめもない断片の連続」だと非難がましく言ったが、その断片もよく見ればしりとりのように前節の言葉を受けて次節の語りが始まったり、「生涯の願い」というテーマを背景にした節が続いたりしている。そうしたつながりや話題の選択や、そこで表明される「彼」の感想や、挿入される警句や、エピソードの結末は、いずれも読者の意表に出ることが多くて、一言で言えば気が利いているのだ。「彼」自身がたびたび言及する『方丈記』ではなく、むしろ『徒然草』に似ていると思った。孤独への志向、俗世への軽侮、知への傾き、美的感覚への信頼、博覧強記などで通じるところがあるように思う。 〇 いつものことながら、堀江さんの文章表現はすこし婉曲でやさしくて知的でとても魅力的だ。これは文章で読ませる小説でもある。

  • とらえどころのなさ。

    高評価の方もいらっしゃいますが、私にはつらい本でした。3ページも読むと眠くなってしまうため、非常に時間がかかりました。筆者は何を描きたかったのか、読み終わってもわかりません。散文というのかもしれませんが、文章の羅列にしか感じられず。文章力そのものはある方だと思うのですが。残念な1冊です。

  • 長い旅に持って行きたくなる。

    長いけれどリズムの良い地の文による丁寧な思考と回想。時間をかけて読んだが、そんなぜいたくが正解だったみたい。

  • 流れにたゆたう船のように

    川に係留された船は場所を移動しないけれど、ひとときとして留まることなく、動き続ける。そのたゆたいがそのまま文章になったような小説。読者はどこにも連れていかれないかもしれないけれど、しかしそこは変化し続ける。

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