海松
海辺の気配と記憶を背景に、人の生の揺らぎを静かに描く小説。自然の色や匂いが、人物の内面と重なって読後に余韻を残す。
作品情報
海松は、稲葉真弓の受賞作として刊行形態でも確認できる作品です。
海松は、新潮社から刊行が確認できる稲葉真弓の作品。受賞歴と書誌情報を合わせて読むことで、同時代の文学賞が評価した題材や語り口を追える。
書籍情報
- 出版社
- 新潮社
- 発売日
- 2009-04-01
- ページ数
- 169ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 19.05 x 13.21 x 2.29 cm
- ISBN-13
- 9784104709021
- ISBN-10
- 4104709026
- 価格
- 1595 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
第34回(2008年) 川端康成文学賞受賞
レビュー
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上質な小説
精密で美しい文章。内容は平易なようで深い。現代ではめったにお目にかかれない水準の小説だ。
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日本語表現の細やかさ
自然や心情表現の豊かさ、その日本語の細やかな表現に、日本語の素晴らしさを学ぶことができました。
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良かったです。
状態が良く、本を大切にするかたが手にしていたことがわかった。
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こういうものが「私小説」だと思われると困るのである
表題作は川端康成文学賞受賞作である。稲葉真弓は苦労人なので褒めたいのだが、まったくの身辺雑記私小説で、面白くも何ともない。こういうものを何も知らない人が読んで、「ああこれが『私小説』ってやつだな。面白くないなあやっぱり」と思われたらたまらん、と思うのである。
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川端康成文学賞を受賞しただけのことはある私小説など4編
稲葉真弓が第34回川端康成文学賞を受賞した表題作等、全4編を収録している。 表題作と次の『光の沼』は私小説系で、どちらも舞台は同じ別荘だ。表題作の方ではその別荘を手に入れることになったきっかけから、家族でのその別荘の利用などが描かれるが、購入きっかけの雉や東京から毎度連れて来る猫、近くの灯台、それに海松などの小道具の扱いが効いていて、特別なことが起こるわけではないのだが味わい深い。『光の沼』の方は同じ私小説と言っても、草刈り中にその沼を見つけ、さらにその沼では…ということでは、まさに特別なことが起こる展開である。まあタイトルから、最後に起こることは予想がついてしまったが。どちらかというと、表題作の方が好きだ。 その2編より短めの後の2編はよりフィクショナルな作品だが、書き下ろしの『桟橋』は舞台が前の2編と微妙に重なる感じで、「橋」渡し的なところを狙ったかなとも思える。
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アア、トウトウ、ミツケタネ
「海松」、「光の沼」、「桟橋」、「指の上の深海」の4篇が入っている。「私」は、雉との出会いから、志摩半島の入り江の傾斜地にセカンドハウスを建てる。都心に自宅を持つ「私」は、この緑の濃い土地に魅せられてゆく。「光の沼」では、著者の筆力によって、泥土のにおい、草いきれ、水のかがやき、風の音、スゲやヤゴが眼前に迫ってくる。これは単なる身辺雑記ではなく、ある種の冒険談である。草刈り鎌を持ってスゲと格闘する「私」は、ある日、ミツケル。人は「持っている」のではなく、「ミツケル」のだろう。 のどかな歌謡的な詩風の中に鬼気迫るものを感じさせる中原中也のファンならば、きっと好きになるでしょう。 「光の沼」は、何度でも読みたい。
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私小説的な感受性の落ち着きと揺らぎ
川端康成文学賞受賞の表題作ほか、「光の沼」「桟橋」「指の上の深海」の四編。 最初の二編は、広くいえば私小説といっていいようなものだろうと感じた。 一口に私小説といっても、たとえば芥川賞で話題になった西村賢太の『苦役列車』のように、 どちらかというと醜悪なプライバシーを赤裸々に暴露ないしは告白する、というものもあるが、 他方、志賀直哉の「城崎にて」などのように、心境小説と呼べるようなものもある。本書は後者に近い。 私小説は日本の伝統ということになっているが、やはり何がしか日本人の心のあり方に即したものがあって、 ストーリーの面白さのようなものとはまた別のところで、味わい楽しめるものではないか。 表題作は、東京で暮らしていて何か人生に充たされないものを感じている女性が、結構な歳になってから伊勢の海に移り住む話。 何も起こらないと言えば起こらないのに、この寂しさと静けさと小さなものに対する感性がいい。何や癒されるような。 「光の沼」はその続きのようだ。 「桟橋」は三人称でわりに普通の小説風。これもどうやら舞台は伊勢。 夫に嫌気が差して逃げるように伊勢にある友人の別荘にやってきた女とその息子の話。 現地で真珠採りをしている男との逢瀬が描かれたりもするが、結局ここにも本当の帰属先がないことが、 リゾート開発で養殖場を奪われる男の立場と重ね合わせて描かれる。 「指の上の深海」では、また一人称に戻る。年齢設定はだいぶ若く20歳後半のモデル。 妻のある男との不倫の関係にあり、それだけでなく人間関係に確かなものを感じられない不安のようなものが、生物的なイメージで描かれる。 ここでの指やら、手首を切って自殺する女の話やらだけでなく、「桟橋」の真珠の生々しいイメージとか、 最初の二編の動植物昆虫とか、ちょっと萩原朔太郎をも連想させる生物的なイメージがこの人の持ち味でもあろうか。 読むのは初めてだったが、なるほど実績を上げているだけあって、プロの作家、という感じがする。
関連する文学賞
- 芸術選奨文部科学大臣賞 第60回(2010年) ・受賞
- 川端康成文学賞 第34回(2008年) ・受賞