ルネッサンスの光と闇: 芸術と精神風土 (中公文庫 M 335)
フィレンツェを中心とするルネッサンス美術を、思想、文学、宗教、寓意の世界と結びつけて読み解く美術史エッセイ。輝かしい造形の背後にある不安、魔術的想像力、精神風土を平明に描き出す。
作品情報
ルネッサンスの明るさだけでなく、その背後にある影と精神の緊張を見つめる。
中央公論社から単行本・文庫として刊行され、のちに上下巻の改版も出た高階秀爾の代表作。美術作品だけでなく、文芸や思想を横断しながら時代の光と闇を論じる。
書籍情報
- 出版社
- 中央公論新社
- 発売日
- 1987-04-01
- ページ数
- 415ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784122014169
- ISBN-10
- 4122014166
- 価格
- 33 JPY
- カテゴリ
- 本/アート・建築・デザイン/芸術一般/美術史/西洋美術史/ルネサンス
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レビュー
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サイズ以上の作品
高階秀爾さんの著書というだけで、西洋絵画に興味がある人にはレビューは不要だと思う。 内容はほかの人が書いているレビューの通り。モノクロだけれども、絵や彫刻の写真も172枚載っている。 それでも星3つにしたのは、字が小さすぎるから(だから実際の分量は、このページ数以上にある)。星を2つ減点した理由は、内容ではなく活字の大きさだけ。 それでも、本という体裁にこだわらない人は、全頁拡大コピーしてでも読んで損はないと思う。
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ルネサンス台頭のフィレンツェが維持できなかった文化の行方
高階氏は先ずルネサンスを育む土壌となったフィレンツェ共和国という都市国家の特異性を説くことから始めている。引用されているヴァサーリの言葉は確かにこの国の体質を象徴している。コジモ・デ・メディチによって創設されたアカデミアでネオ・プラトニズムや新しい科学に感化されて育った文化人や芸術家達は、彼らの才能を先進的な創作活動に注ぎ込むが、フィレンツェがその爛熟と凋落の狭間にさしかかった時、メディチ家の当主ロレンツォ・マニフィコは外交的な政略手段として多くのアーティストの外部派遣を敢行する。しかしその後彼らは故郷での仕事に再び就くことは稀だった。何故なら因習的なフィレンツェの人々の趣味は洗練に敏感であっても革新的なものには常に懐疑的だったからだ。そしてロレンツォのサヴォナローラとの確執と敗北、更にサヴォナローラの火刑に至る時空をフィレンツェで生き続けたボッティチェッリの作風が第七章までの中心的なテーマになる。これについては同著者の『フィレンツェ』に詳しいが、以降の考察に欠かすことができないプロローグとなっている。 ルネサンス以降のアーティスト達は作品に彼らの哲学や宗教的、あるいは歴史的事象を意識的に盛り込むので、ヨーロッパ文化から離れた世界の人にとっては、個人の美学的センスに頼るだけでは充分ではなく、いわゆる絵解きが不可欠になってくる。後半では三美神や目隠しされたキューピッドの意味するところが詳述されているが、ボッティチェッリの『春』ひとつを鑑賞するのに最低限知っておくべきことが如何に多いかという事実も、彼が当時を代表する第一級の教養人だったことを証明している。こうした絵解きをしていくことによって初めてそれぞれの作品の深みに接することが可能になるだろう。しかしある程度のルールを理解するのであれば、それは他の作品にも応用できる。そうした重要なヒントが満載されているのが本書だ。その意味では学術書であると同時に芸術作品鑑賞のための最良のガイド・ブックになり得る優れた解説書でもある。確かに掲載された写真は総て白黒でサイズも充分な大きさとは言えないが、現在インターネットを通じてたやすく作品のイメージを閲覧できることを考えれば、それらの欠点を補って余りある価値の高い著作だ。 アカデミアのネオ・プラトニズムはプラトン哲学とキリスト教の整合性を観念的に理想化しているが、そうした複雑な考察がさまざまな名画にも映し出されている。第四部2人のヴィーナスではボッティチェッリの『ヴィーナス誕生』からティツィアーノの『聖愛と俗愛』、ラファエッロの『騎士の夢』、更にはティツィアーノの『フローラ』や『聖女マグダレーナ』と続いて女神ヴィーナスの持つ二面性を説いている。美の象徴であるヴィーナスには、その背後に快楽をもたらす娼婦のイメージが二重写しになるのは宿命と言えるだろう。第五部ではジョヴァンニ・ベッリーニの『神々の祝祭』の謎めいた登場人物についての詳細な考察が興味深い。カトリック宗教画の権威だったベッリーニがイサベッラ・デステとの長い交渉の末にようやく承諾した異教の神々の宴に寄せた作品は、実は1502年に結婚した弟のアルフォンソ・デステとルクレツィア・ボルジャのために描かれたと結論付けている。神々のそれぞれの顔は新郎新婦やこの絵画制作を仲介したピエトロ・ベンボ、またベッリーニ自身の自画像になっているが、弟子のティツィアーノによってかなり大胆な手直しがされた事情も解き明かされている。それはアルフォンソの趣味に合わせた改変だが、新しい絵画様式の到来をも告げていて象徴的だ。
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間違い
p35 フラ・アンジェリコとシニョレルリの図版のキャプション、左右が間違っている。
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本当の意味での知識人が書いた本
当の知識人が書いた本は、この様なものであるのかと感心した。 ルネッサンス期に製作された作品群を丹念に読み解き、構図の意味やモチーフの起源を明らかにしていく説明手法は、私には非常に新鮮に感じられた。 著者が作品を読み解くために利用しているイコノロジーという学問にも非常に興味をそそられたので、機会があればそちらの関係の本も読んでみたいと思った。
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一般に根づかなかった方法論
70年代に入って美術史は活況を呈する。それはパノフスキーの影響が日本でも根づいたことによるものであろうか。パノフスキーの「イコノロジー研究」を始め、ルネッサンス関係の書物が続々と翻訳されはじめる。 この本は日本での、パノフスキーの研究方法を取り入れた最初期のものではないだろうか。パノフスキーはその書を1939年に出版しているから30年後の成果ということなる。だが、残念なことに、この現象は研究者に及んだだけで、一般には反映されなかった。「イコノロジー研究」はまもなく版ぎれになった。 上のことを考えると、高階さんのこの書がいかに画期的なものであったかがうかがわられる。内容の関しては、ほかの方々が書いているので、そちらにゆずる。
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人文思想を辿る好著
15世紀にフィレンツェで開花した「人文主義思想」が、同時期の造形作品に結実していく課程が興味深く検証されている。特に「人文主義」の影響を色濃く受けたボッティチェッリの『春』に込められた図像的思想が、「三美神」「四性論」「キューピッド」を背景として、綿密に検証され、一種の「謎解き」として読んでも充分に楽しむ事が出来よう。
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西洋絵画のアレゴリー
ヨーロッパ美術が華々しく花開いたルネッサンス期の絵画の影に秘められた精神を中世以来の精神と比較した論評である。 絵画の陰に隠れた精神は寓意―アレゴリーとして具現化する。その精神を多くの解釈を交えながら著者独自の見解をしめす。美術史研究の方法論はもちろん西洋精神史の観点からも非常に参考となる一書である。モノクロながら豊富な挿図と文献案内・索引は重宝する。