芸術選奨文部科学大臣賞 げいじゅつせんしょう もんぶかがくだいじんしょう
第22回(1972年)
受賞者
14名江戸後期の歴史家・詩人である頼山陽の生涯を、家族関係、病、交友、漢詩文、幕末思想へ及んだ影響まで広げて描く評伝。中村真一郎は人物の内面と時代の知的風景を重ね、近世文学と歴史精神の交差をたどる。
頼山陽という人物を通して、江戸後期の知と詩のうねりを読み解く大部の評伝。
本土から置き去りにされた島を舞台に、外部から来た男の死をめぐって共同体の圧力と責任の曖昧さを描く安部公房の戯曲。寓話的な設定の中で、愛、排除、暴力が交錯する。
島という閉じた場所で、共同体の沈黙と責任が不穏に立ち上がる。
フィレンツェを中心とするルネッサンス美術を、思想、文学、宗教、寓意の世界と結びつけて読み解く美術史エッセイ。輝かしい造形の背後にある不安、魔術的想像力、精神風土を平明に描き出す。
ルネッサンスの明るさだけでなく、その背後にある影と精神の緊張を見つめる。
敗戦後の東京を背景に、盲目の少女との出会いから、愛欲、死、幻影が絡み合う小説。金子光晴は詩人らしい濃密な言葉で、人間の哀しさ、愛しさ、残酷さを同時にあぶり出す。
恋の道行きが地獄巡りへ変わる、詩人金子光晴の異色小説。
遠藤周作の同名小説を篠田正浩が映画化した歴史劇。キリシタン弾圧下の信仰、棄教、権力の圧迫を、湿度のある映像と静かな緊張で描き、神の沈黙という主題に迫る。
信仰を守ることと生き延びることのあいだで揺れる人間を見つめる映画。
渥美清が車寅次郎を演じた「男はつらいよ」シリーズにおける大衆芸能上の成果。庶民的な笑い、旅、失恋、家族の情を重ね、寅さん像を日本映画の長寿キャラクターへ育てた。
車寅次郎の笑いと哀愁を通して、庶民の情を映画に刻んだ。
巌本真理を中心とする弦楽四重奏団の演奏活動。日本における常設弦楽四重奏団の先駆的存在として、室内楽のレパートリーを精密な合奏で紹介し、戦後の演奏文化に大きな役割を果たした。
日本の室内楽演奏を切り開いた、巌本真理弦楽四重奏団の活動。
花柳茂香による舞踊作品群。古典的な日本舞踊の身体感覚を保ちながら、現代的な音響や声の扱いを取り入れ、舞台上の距離、余韻、響きを繊細に構成した。
古典舞踊の身体と現代的な音の感覚が交わる舞台。
白川義員がヒマラヤの高峰と山岳風景を大判写真でとらえた写真集。峻厳な自然の造形、雪と岩の質感、光の変化を通じ、山岳を宗教的な荘厳さを帯びた風景として提示する。
ヒマラヤの雪と岩と光を、荘厳な山岳風景として刻んだ写真集。
能の演目「鸚鵡小町」をめぐる観世寿夫の舞台成果。老境の小野小町を扱う題材を、謡、間、身体の緊張によって現代の観客にも届く舞台表現へ研ぎ澄ませた。
老小町の言葉と身体を、能の沈黙と緊張の中に立ち上げる。
牛山純一が手がけた南太平洋の航海ドキュメンタリー。クラ交易をめぐる海の移動、島々の生活、儀礼と交換の世界を映像で追い、遠洋航海を文化人類学的な視点からとらえる。
クラ交易の海を進む船旅から、島々を結ぶ文化と生活を映し出す。
幕末から明治維新へ向かう時代を背景に、歴史上の人物と政治の転換期を描いた放送ドラマ。小野田勇の脚本は、時代劇の枠組みを用いながら、人物の度量や決断を大衆的な語り口で見せる。
維新期の人間像を、明快な時代劇の語りで描く放送ドラマ。
越路吹雪が日生劇場などで続けた長期リサイタル公演。シャンソンを中心に、歌唱、語り、舞台構成を一体化させ、戦後日本のステージ歌謡を劇場的な表現へ高めた。
歌と語りと演出を束ね、劇場空間でシャンソンを響かせた越路吹雪の代表的舞台。
安部公房の戯曲「未必の故意」と「ガイドブック」を中心にした演劇上の成果。共同体から置き去りにされた場所や制度化された観光のまなざしを通して、個人と集団、暴力、責任の所在を問い直す。
安部公房らしい寓意と不条理が、共同体と責任の問題を鋭く照らす。