ぼくもいくさに征くのだけれど: 竹内浩三の詩と死 (中公文庫 い 103-1)
映画監督を夢見ながら戦地で亡くなった詩人・竹内浩三の生と死を追うノンフィクション。残された詩と足跡をたどり、戦争に行くことの意味を若い著者の視線で見つめる。
作品情報
戦死した若い詩人の言葉をたどり、戦争と表現の距離を見つめる。
中央公論新社刊、のち中公文庫。竹内浩三が残した詩、家族や関係者の記憶、戦地への訪問を重ね、戦場で死ぬことと表現が残ることの意味を問う。
レビュー要約
-
若くして戦死した詩人を、資料だけでなく現地への旅と同世代の感覚から追う点が印象的。悲劇を遠い歴史にせず、現在の読者へ引き寄せる。
書籍情報
- 出版社
- 中央公論新社
- 発売日
- 2007-07-25
- ページ数
- 346ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784122048867
- ISBN-10
- 4122048869
- 価格
- 796 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/詩歌/詩論
第36回(2005年) 大宅壮一ノンフィクション賞受賞
レビュー
-
浩三のことを教えてくれてありがとう
出久根達郎の『面一本』に出てくるせどり師が教えてくれた竹内浩三の詩「骨のうたふ」が気になり、浩三をルポしたこの本を読みました。 稲泉連は1979年生まれだから、いまは40歳くらいですね。でも、2005年の大宅壮一郎ノンフィクション大賞の受賞作なので、このとき26歳。文中で2年半前から取材に取りかかったと書いているので、23歳くらいから取材して、まとめて、発表しているのですね。 はじめのあたりは、浩三の実家を形容する言葉が繰り返し出てきて、編集者はなにをしていたのだろうと考えました。しかし、読みすすめて行くにしたがって、この若書きがよいのだということに気づきました。この若者の想いに編集者は朱を入れられなかったのでしょうね。 この本は浩三の詩を知るうえで必要な知識を与えてくれますが、なにより浩三の詩を大切に思い、後世に伝えなければならないという人たちを克明に描写しています。こうした人たちのひとりに、この若者もなっていったことがよくわかります。 浩三のことを教えてくれてありがとう。
-
あの時代に、素直に不安を綴ることの意味について考える
伊勢市出身の竹内浩三は23歳で戦死しますが、彼が生前書き残した数々の詩は戦後多くの人々をひきつけていきます。職業詩人であったことはない浩三の作品群はやがて様々な人々の手を介して書物の形で世に出ることになります。本書「ぼくもいくさに征くのだけれど」は、そうした書と出会った若き著者が、あらためて竹内浩三の足跡を辿ることによって戦争に対する思いを綴った一冊です。 先月(2005年4月)、本書は大宅壮一ノンフィクション賞を史上最年少で受賞しました。その筆遣いは20代前半という年齢を感じさせぬほどの練達ぶり。ライターとしての技量は母親(ノンフィクション作家の久田恵)譲りなのでしょうか。 浩三は、「骨のうたふ」という詩の中でこんな風に綴っています。 「がらがらどんどんと事務と常識が流れ 故国は発展にいそがしかった 女は 化粧にいそがしかった」 戦時中に書かれたとは思えぬほど、戦後の日本を見透かしたかのような一節です。その眼力にまず驚かされます。 出征する兵士を町ぐるみで「祝い」、「撤退」を「転進」と言いつくろう、そんな時代にあって、浩三は別の詩でこうも書きます。 「そんなまぬけなぼくなので どうか人なみにいくさができますよう」 拳を振り上げて力強く反戦を言い募るでもなく、混沌とした時代に一人の青年として大きな不安を抱えていることを、浩三は素直に文字にしていきます。 浩三の詩を初めて全国に紹介した本の編集にあたった人物がこう語る言葉に胸を衝かれました。 「私たちの世代の二十歳までの間はね、ちょっと格好をつけて言えば、すべて自分以外の目的のために生きるということが当たり前だったんです」(169頁)。 そのことの善悪は別として、そういう時代が60年前にあった。そのことがなにやらとても不思議と遠く感じられる今に生きていることを改めて考えました。
-
ワスレナイデ、といっていた…
わすれもしません。 十年ほど前に図書館で引き寄せられるように手にし 生涯忘れることのできない、本になりました。 以来、毎年、8月15日がくるたび 浩三さんの詩を思い出し、おいおい泣きます。 浩三さんとおなじように、どこか遠くの空の下で、ひょん、といなくなってしまった、 たくさんの人たちを思い、泣きます。 あの人たちは、戦争のない時代に生まれたわたしたちに、何を望んでいるんだろう? それが、この本を読んで、わかった気がしました。 ただ、ただ、泣いてほしかったんだ。 母のように、姉のように。 あの人たちは、忘れないで欲しかったんだ。 そして、抱えきれない、この悲しみを しっかり抱いて、刻みつけ生きてくことが 戦争を二度と起こさないことにつながるんじゃないか、と考えるようになりました。 戦争を知らないわたしに、戦争で逝った人たちの思い、を伝えてくれた本なので 手もとに置いておきたくて、購入したものです。 のちに、シンガーソングライター宮沢和史さんの著書「詞人から詩人」への冒頭に 浩三さんの「骨のうたう」が記されてるのを発見しました。 宮沢さんが影響を受けた詩人とその詩を集めた、その一番最初に… 詩にこめられた浩三さんの魂の力はもとより 時代の溝に橋を渡す、という、至難の技を果たされた、作者の「稲泉連さん」が 東北大震災関連の著書も出されているとAMAZONの検索で知ったので そちらも読んでみたいと思いました。
-
Wonderful
I was expecting just a book of his poems...but I found it came with a lot more words! A challange for sure!
-
骨やあわれ、すばらしい
その一節が、本のタイトルにもなっている「骨やあわれ」、本当にすばらしい才能だと思いました。作者が、その後、自分がうたったとおりのあわれな骨になってしまったことが、切ないです。もし、生きていたら、どんな作品を私たちは見ることができたのだろうかと思います。国民みんなが戦争に狩り出された時代があったこと、文系や芸術系の多くの学生の命が失われたことを、忘れてはいけないと思いました。
-
若者の不安
戦時中に思春期を迎えた若者の不安を伝える評伝ではあるが、今を生き抜かなければならない若者の不安も充分伝わってくる本である。浩三の、戦争という理不尽なものに呑み込まれつつも、自分を見失わずに行きようとした姿に、生きる指針を見いだす読者も多いのではないだろうか。一人の若者の肉声を、姉、友人、戦争体験者が守り、伝え、広め、を繋げていった結果、筆者の目に止まり、浩三の征った戦地に出向いてまでの情熱を持って書かれたこの本は、戦後60年の重みを持ち、かつまた、混沌とした今、明日への、忘れてはならないものを確かめさせる貴重な旗印でもあると思える。
-
Amazonカスタマー
地道に関係者に取材され、温かな筆致でまとめられた労作。惹きつけられました。
-
溝を埋めるために
もちろん、この本の主題は竹内浩三の詩、その生と死なのだが、 同時に、竹内の言葉に心を突き動かされ、 それを次の時代に引き継ごうとした人たちの魂の記録でもある。 その全集から、戦争に直面した普通の若者の言葉と、 自分と同年齢で戦場に消えたことを知った著者の稲泉氏は 実姉が語る人間・竹内浩三の面影を、 さらには、竹内の言葉に自らの戦争体験を重ね合わせ、 まさに命を賭して伝えようとした人々を、追いかけていく。 そうして稲泉氏は、自らが竹内を知った全集に再びたどり着く。 その構成・語り口には、まるで、空に高く揚がったブーメランが、 投げた人の手元に戻ってくるのを見るかような鮮やかさがある。 それでも、稲泉氏の旅は終わらない。 竹内が命を落としたというフィリピンのバギオへ、 竹内の幻を、そして日本人の戦争の幻を訪ねていく。 戦争を体験した者と、戦争を知らない者との間に横たわる、 埋めようのない溝を、埋めるために。 本書は、竹内浩三を知るための、絶好の入門書であると同時に、 70年前の戦争から遠く離れた世代の人でも、 戦争を我がこととして知り、伝えることができることを教えてくれる、 珠玉の一冊である。