作品情報
『火山島』は、長編小説として人の記憶と時代の手触りを静かに浮かび上がらせる。
『火山島』は、金石範による長編小説。受賞作として知られ、個人の経験や社会の空気を通して、日常の奥にある葛藤や変化を描く。
レビュー要約
-
題材への切り込み方と落ち着いた語り口が読まれている。読後には、人物の選択や時代背景について考えさせる余韻が残る。
書籍情報
- 出版社
- 文藝春秋
- 発売日
- 1983-06-01
- ページ数
- 390ページ
- 言語
- 日本語
- ISBN-13
- 9784163631707
- ISBN-10
- 4163631704
- 価格
- 5273 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論
一九四八年春、朝鮮の南端済州島は隆起する─日本からの解放後の若き革命群像の焦躁と爆発を大壁画に描き、日本文学に衝撃を与える長篇小説四千五百枚遂に刊行
レビュー
-
高齢読書人はKindleで読みたい
こういう長く重い(以上、物理的に)小説は、内容の重さも考慮すると、重要な小説です。 ぜひKindle化してください。 読書バリアフリーにご協力を!
-
破格の大河小説
長い。重い。多分カラマーゾフの3、4倍はある。細かい文字で上下二段組、びっしり書かれて七巻まであり、一冊のページ数は500ページを越える。原稿用紙で11000枚というので、文字数で言えば440万字だ。(さらに、続編の「地底の太陽」もある) ギネス公認の「最も長い小説」はプルーストのあれらしいんだけど、今度比べてみよう。 それだけでも読者を選ぶ作品だが、内容はさらに終戦直後の「済州島四・三事件」、新政府の圧政に対する島民の武装蜂起を国軍が鎮圧し、島民の1/3が犠牲になったと言われる事件を描いた作品であるため、一部の物好きにしか受容されて来なかった嫌いがある。事件の直前に日本へ亡命した作者は、事件発生後日本へ亡命してきた同郷者への取材をもとに、血を吐く思いでこの物語を綴ってきた。 物語は李芳根という済州島の資本家の息子と、南承之という元貧乏学生の南労党員を中心に進んでいく。李芳根は激しやすいが弱者に対する優しい心と正義感を持ち、戦中に日本官憲により思想犯として投獄された過去を持つ。南承之をはじめとする多くの若者に慕われているが、現実に絶望して放蕩の限りを尽くしている。 大まかに言うと一巻では李芳根に対する南労党員らの執拗なオルグ、二巻では南承之と先輩党員の康蒙九による在日同胞への革命資金集めの旅、三巻では武装蜂起までの過程が描かれている。 当初の計画ではここで完結するはずだったが、さらに倍以上の内容が加筆され現在の量となった。四巻は李芳根がソウルに出奔して「謎の美女」に出逢いその正体が明かされるまでである。五巻で李芳根は友人と美女を伴い再び済州島に戻る。やっとここまでたどり着いたか、と思う。速読の部類の私でも、一ヶ月以上かかった。 かなりはしょった書き方をした。他にも魅力的な登場人物はそれこそ「泰山のように」出てくる。李芳根を執拗にオルグしようとするコウモリのような柳達鉉、李芳根を疎みつつも手放せない父親の泰洙と、李芳根を慕う妹の有媛、その友人で奔放な美少女の趙英夏。彼女が出てくると私はわくわくしてしまう。地名も私には身近な場所が多く、頭の中で場所を想像しながら読むことができる。 通俗小説を紹介するように書いたが、そのように読まれてもいい小説だと、私は思う。確かにこの小説には憤怒と暴力があふれているが、たとえ政治的な要素を抜きにしても、家族、恋愛、そして若者たちの青春群像など、楽しく読める要素もふんだんに入っている。 特筆すべきは、食事と酩酊の描写の見事さだ。この小説ではセックスの描写がほとんどない代わりに、毎度の食事と酒を緻密に描写している。今年で85歳になる作者は、酒豪ぞろいの在日朝鮮人作家の中でも伝説の人だが、作者の酒癖と料理への愛情が見事なまでに、主人公の李芳根の人格に取り入れられている。読んでいると胃袋がつかみ出されそうになるほど、酒と朝鮮料理が欲しくなる。読みながら何本の焼酎を空けてしまっただろうか・・。 政治的なバイアスを持った人にしか読まれないのは、この小説にとって不幸なことだ。もっとエンターテインメントとして読まれていい。 優れた脚本家によって映像化されたりはしないだろうか・・。是非見てみたい。 「文庫本化されたら読む」などと言わず、大抵の図書館にあるから是非読んでほしい。 残念ながらこの物語の結末を私はもう知ってしまっている。それは悲劇的なものだが、作者の温情は「地底の太陽」という続編で、若者に希望を託し、未来につないでいる。 なお、済州島はその後ゲリラ討伐で廃墟となった村々を蜜柑畑が覆いつくし、事件の痕を探すことは困難である。今日の沖縄が静かな砂糖黍畑の島であるのと、よく似ている。 なお、作者の酒豪というか酒乱ぶりは短編の「夢、草深し」に詳しい。記憶を無くす、荷物を無くす、階段から落ちる、血まみれで家に帰る・・当時60歳くらいだろうか。生活に困窮して始めた一杯飲み屋で、店の酒を全部飲んでしまったこともあるらしい。こういう作家が少なくなってしまったんだろうな、と思う。生きているうちにお会いしたいものだ。
関連する文学賞
- 大佛次郎賞 第11回(1984年) ・受賞