作品情報
捜査の夜が明けるとき、刑事たちは組織の影と自分自身の迷いに向き合う。
『夜の終る時』は、結城昌治の代表的な警察小説として日本推理作家協会賞を受けた長編。筑摩書房の『夜の終る時/熱い死角』で、受賞作を収録した文庫版の ISBN 9784480435149、ISBN-10 448043514X、416ページを確認した。
レビュー要約
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組織の矛盾と刑事の内面を冷静に描く点が評価される。派手な謎解きよりも、現場の重苦しい空気と判断の苦さが読みどころになっている。
書籍情報
- 出版社
- 筑摩書房
- 発売日
- 2018-04-10
- ページ数
- 416ページ
- 言語
- 日本語
- サイズ
- 10.5 x 1.7 x 14.8 cm
- ISBN-13
- 9784480435149
- ISBN-10
- 448043514X
- 価格
- 924 JPY
- カテゴリ
- 本/文学・評論/文芸作品/日本文学
組織の歪みと現場の刑事の葛藤を乾いた筆致でリアルに描き、推理作家協会賞を受賞した警察小説の記念碑的長編『夜の終る時』に傑作…
レビュー
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さすが「傑作選」。
結城昌治の「警察小説集」。長編1編と短編4編。 長編は「夜の終わる時」、短編は「殺意の背景」、「熱い死角」、「汚れた刑事」、 「裏切りの夜」。 題名の付け方が独特だが、清張に比すると少々見おとりする。「夜の終わる時」 は、日本推理作家協会賞受賞。解説によれば、国産警察小説最初期の作とある。1963 年の出版。 結城の作風は確かに「ハードボイルド」的であり、文体は乾いているとは言いに くいものの、なるべく心理描写を煩雑にせずに事実を突き放したように提示する ところに特徴がある。もちろん推理ものとしても読むことができる。 「編者解説」に、生島治郎による興味深い指摘がある。 「両者(日本とアメリカ)の『根本的な相違』は『日本の社会派推理小説が好んで 現実に起こった事件を作品の主体にしたのに反し、彼ら(アメリカの作家)は決し て現実の事件をなぞることなく、自分の創作した世界の中で事件を描きながら現 実社会のゆがみを指摘したことにある』」。 これは創作上のテクニック的な問題か、本質に関わる問題か、それは不明のま まだ。 ここでは、簡単に各作品をレビューする。 「殺意の背景」。30ページほどの小品でテンポは小気味よい。愛する人の死をめ ぐり、主人公は懊悩するがその犯人は意外な人だった。最後の「オチ」は伏線もな く、いきなりの全容解明となるが、ストーリーは破綻はしていない。事件の要因 は、1968年当時ではかなり衝撃的か。 「熱い死角」。過去を知られぬために犯罪を犯した女性。冒頭に描かれる事件が 主人公の家庭に暗い予感を思わせる。他人と歩いている様子を目撃し、主人公は 疑心にとらわれる。ただ、主人公が喋りすぎることが欠点か。真実は残酷なもの だった。相手を憎むことで終わるのではなく、まさし心を盗まれた人間の孤独と 哀しみ。 「汚れた刑事」。刑事が酒の上で不祥事を起こす。だが何かがおかしい。不快な 思いで主人公は疑念を調べる。かわいい娘がいながら何故暴れたのか。女性の姿 もちらつく。追い詰められわざと捕まった。全ては娘のためだった。そして不運 を背負い込むかたちで殺された。決して「汚れて」などはいなかった。 「裏切りの夜」。情のあるヤクザの突然の失踪。理由は分からない。縄張り抗争 か、金銭のもつれか、痴情沙汰か。関わりのあった者も殺される。さらに被害者 も出る。あまりにも「人情話」の結末だが、結城の重い小説にあってもいいだろう。 個人的には一番好きだ。 長編「夜の終わる時」。1963年が舞台。事件の匂いのする刑事の失踪。なぜ失踪 したのか、どこにいるのか、まるで不明のまま暑全体が緊張に包まれる。 拳銃が「コルト」の32口径。ニューナンブが主な制式拳銃かと思っていたが、当 時はコルトも使われていたらしい(ニューナンブは1960年から製造)。また、刑事 が出世して「警察庁」にいくという表現があった。当時は(そして今も?)、都下で あっても警視庁ではなく警察庁のルートがあった(ある)のか些か不思議。 反社会勢力も、博徒・愚連隊のヤクザという表現がある。 失踪した刑事はヤクザとの関係が疑われ、同僚もその線で捜査する。 失踪者はやがて遺体で発見される。 混乱する状況に拍車をかけるように、遺体にはちぐはぐな所がある。ここで捜 査する刑事に様々な思いが渦巻く。警察官としての職務に悩む者もいる。 描写は丁寧で臨場感もある。取り調べの様子やヤクザの行動も丁寧に描写して いるためだろう。張り込みのシーンも秀逸。主人公の警察官は論理的に推理して ゆく。これは内部犯行なのか。 第二部。冒頭で早くも真犯人が露見する。実に劇的な展開で、きちんと計算さ れたストーリー。その犯人の長い長い独白。犯人の追い詰められた焦燥感、世間 への怨嗟、自らの人生の嘆き、恵まれた者への憎悪。息を呑むほどの迫力がある。 一気呵成に書いたようにも思えるが、破綻なく分裂した心を描くのはかなりの計 算があるはず。 薄ぼんやりしたような意識の中で今までの出来事が浮かび、生気がなくなりつ つあるままに最後まで足掻く。最後は愛した人からさえも捨てられるのだが。 そんな結末。 「夜の終わる時」とは夢の終わる時か。おそろしいほどの虚無の闇で生きた人間 の無惨さ。 文章は密であり、多くの情報がある割には読みにくくはない。かなりプロット を錬り、文章を削ぎ取った様子もある。昨今の小説とは随分と違い、緊張感が最 後まで続く。会話文や情景描写のバランスもよくとれている。 短編も長編もさすがに「傑作選」だけあって、小説としての香りが十分にある。 お勧めもお勧め。
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深い余韻が後を引く警察小説
捜査中に行方不明になった刑事が、ホテルの一室で他殺体となって発見された。怒りと哀惜に突き動かされるように、事件を追う同僚刑事たちのまえに、第二第三の殺人が…。 過剰な描写や説明をおさえた簡潔な文章が、刑事たちの人生の断面と事件の断片を怜悧に切りとりシャッフルし、やがてわずかな瑕疵から、隠れていた事件の全容をパズル画のように立ちあがらせてゆく展開は、スリリングでページをめくる手を止めさせない。後半は倒叙形式へと構成が変化し、不安と焦燥にさいなまれる犯人の視点から改めて見渡される事件の様相が、より痛切なサスペンスをもって胸に迫ってくることとなる。謎解き推理と倒叙サスペンスの二段構成に惹き込まれたのち、声なき暗い慟哭にみちたラストが深い余韻となって後を引く、警察小説の先駆けともいうべき、1963年度・推理作家協会賞受賞の秀作である。 この長編『夜の終わる時』の他に、四つの短編が収録されているが、いずれも刑事やヤクザゆえに、結婚や家庭の幸福を掌中にすることが困難だった者の煩悶が、哀切な抒情を滲ませる作品となっている。 蛇足・校正ミスなのか、句読点の間違いが連続するページがあったのが気になった。
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和製悪徳警官物の嚆矢
【収録作品】 夜の終る時 殺意の背景 熱い死角 汚れた刑事 裏切りの夜 前半部を捜査側から、後半を犯人の視点から描く二部構成をとった『夜の終わる時』はW・P・マッキヴァーンやエド・レイシイの諸作に触発された和製悪徳警官物の嚆矢。当初はストレートな本格物として構想されたが、犯人の内面を克明にする為に異色の構成をとった著者の狙いが見事に奏功している。非常に抑制された筆致ゆえに最近の警察小説に比べれば地味に感じられるかもしれないが、焦燥の末、炙り出される真犯人の悲痛な心理を描いて、その闇の深さはジム・トンプソンやエルロイの傑作ノワールにも引けをとらない。 併せて収録された1960〜70年代初頭に執筆の短編も短い紙数の中に長編並みの密度あるプロット展開で、非情な権力機構の中でもがく人間模様を描く。その作品が醸し出す暗い抒情は著者の最高の美質である。中でも「裏切りの夜」の結末は一際心憎い。
関連する文学賞
- 日本推理作家協会賞 第17回(1964年) ・受賞