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ミシェル・レリスの肖像

読売文学賞

ミシェル・レリスの肖像

千葉文夫

ミシェル・レリスを、文学・美術・自伝の交差点から読み直す研究書。マッソン、ジャコメッティ、ピカソ、ベイコン、デュシャンらとの関係をたどり、肖像という主題がレリスのテクストとイメージの往還のなかでどのように変奏されるかを論じる。

ミシェル・レリス肖像フランス文学美術批評自伝

作品情報

レリスの肖像をめぐる旅は、二十世紀フランスの文学と美術を映し合う鏡になる。

『ミシェル・レリスの肖像』は、レリスの代表的な自伝的営みを、画家たちが描いた肖像、レリス自身が描いた芸術家像、そして自画像の問題へと開いていく。文学研究と美術批評を横断し、イメージとテクストが互いを映し返す場としてレリスを捉えるライフワーク的著作である。

レビュー要約

  • 研究書として、レリスの自伝的作品と美術家たちの関係を広く結び直す構成が評価される。専門的な主題を扱いながら、肖像という軸が読者に見通しを与えている。

書籍情報

出版社
みすず書房
発売日
2019-10-24
ページ数
264ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784622088479
ISBN-10
4622088479
価格
6050 JPY
カテゴリ
本/文学・評論

ミシェル・レリスの仕事は、代表作と目される『成熟の年齢』や『ゲームの規則』 四部作に示されるように、記憶の襞の奥に入り込み、独自の「詩と真実」の追求を試 みる自伝的作品に本領がある。 本書は幾重にも折り重なる「肖像」の意味を問い直すために書かれることになるだ ろう。画家たちが描くレリスの肖像があり、レリスが描く画家たちの肖像があり、画 家たちとレリスが描く芸術家と芸人たちの肖像があり、そのなかには自画像もまた含 まれている。イメージとテクストはそれぞれが鏡のようになって、鏡像が反射しあ う。 ゲームとは、賭けであり試合であり見世物であり遊戯であり演戯である、レリスの 「ゲームの規則」をさぐる試みもまた一個のゲームを構成することになるだろう。 没後30年、死後の生において「栄光」を手に入れたかに見えるミシェル・レリス。 20世紀フランスにおける特異な存在である「文脈から逸脱をつづける人」についに共 鳴する、エレガントなライフワーク。図版73点。

千葉文夫(ちば・ふみお) 1949年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科満期退学。パリ第一大学博士課程修了。 早稲田大学名誉教授。著書に『ファントマ幻想』(青土社)、編著に『ジャン・ルー シュ 映像人類学の越境者』(森話社)、分担執筆に『ストローブ=ユイレ シネマ の絶対に向けて』『クリス・マルケル 遊動と闘争のシネアスト』(以上、森話社)、 『引用の文学史』『異貌のパリ』『生表象の近代──自伝・フィクション・学知』『詩 とイメージ──マラルメ以降のテクストとイメージ』(以上、水声社)、『文化解体の想 像力』『時代劇映画とはなにか』(以上、人文書院)、訳書に、レリス『角笛と叫び』(青 土社)、同『ミシェル・レリス日記』(みすず書房)、同『縫糸』(「ゲームの規 則」III、平凡社)、スタロバンスキー『オペラ、魅惑する女たち』、ドゥレ『リッチ &ライト』(以上、みすず書房)、シュネデール『グレン・グールド 孤独のアリ ア』、同『シューマン 黄昏のアリア』、オーデル編『プーランクは語る』(以上、 筑摩書房)、クロソフスキー『古代ローマの女たち』(平凡社ライブラリー)、マセ 『最後のエジプト人』(白水社)、『マルセル・シュオッブ全集』(共訳、国書刊行 会)、ジャンケレヴィッチ『夜の音楽』(共訳、シンフォニア)などがある。

レビュー

  • 興味深い現代美術史の本!

    著者の西洋美術史の解説は、シュールレアリスム(超現実主義)からはじまる。なぜなら、ミシェル・レリスはマッソンやバタイユらと共にシュールレアリスム運動推進の先端にいたからだ。著者は、レリスがマッソンの作品は「存在論」的作風で、ジャコメッティの作品は「現象学的」作風が見られると評価したと述べる。 ジャコメッティが遺した肖像画のデッサンを著者は紹介する。目と鼻の長さが等間隔になるように描いている。フッサールの現象学は知覚による対象の本質直観を現象学的還元によって行うが、本書で紹介された男性老人の肖像画のデッサンは、無数の縦線と横線が交錯している。丸で老人の顔面が、無数の縦線・横線の交錯によって、黒いヴェールによって覆われているようにも見える。しかし、紛れもなく、男性老人の顔である。ところが、本書を自分の顔に近づけていくと、両目を縁取る隈線が髑髏(ミイラ)のように見えてきて、男性の顔なのか、女性の顔なのか、判別しにくくなってくる。これがジャコメッティが表現する超現実主義(シュールレアリスム)の手法である。表題が「ラザロのようにージャコメッティの場合」となっているのは、この死者(ミイラ)の顔が男性老人の顔として甦るからであろう。これを著者は、イエスによって棺桶から甦った男、ラザロに例えたのである。 こうして本書を読むと、実に楽しく、面白い。ミシェル・レリスの評伝よりも、著者が紹介する西洋美術史の語り口が本書の白眉である。こんなに面白い西洋美術史の本に出会えたのは久しぶりだ。 お勧めの一冊だ。

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