芸術選奨文部科学大臣新人賞 げいじゅつせんしょうもんぶかがくだいじんしんじんしょう
第67回(2017年)
受賞者
12名シェイクスピア史劇をもとにした舞台『ヘンリー四世』での浦井健治の演技が受賞対象。王位をめぐる政治的葛藤、父子関係、放蕩王子ハルの成長を描く作品で、受賞は書籍ではなく舞台上演と俳優の成果に対するものだった。
放蕩の王子が、戦乱と父の影の中で王となる資質を試される。
小さな金属加工工場を営む家族の前に、夫の古い知人が現れることから日常が静かに崩れていく深田晃司監督の劇映画。親密な家庭の内側に潜む罪悪感と断絶を、抑制された演出で描く。
あの男が現れるまで、家族は家族でいられると信じていた。
山田和樹が日本フィルハーモニー交響楽団と取り組んだマーラー交響曲の連続演奏プロジェクト。巨大な編成と精神性を持つ作品群を、若い指揮者の集中力とオーケストラとの継続的な関係によって積み上げた。
マーラーの巨大な響きに、指揮者とオーケストラが継続して向き合ったシリーズ。
新国立劇場バレエ団が2016/2017シーズンに上演したケネス・マクミラン振付のバレエ。米沢唯はジュリエット役として、恋、葛藤、死へ向かう少女の感情を緻密な身体表現で示した。
言葉を持たない舞台で、ジュリエットの感情が身体によって立ち上がる。
在日コリアンの少女ジニが、日本と朝鮮学校、過去と現在、言葉と身体のあいだで自分の居場所を探す青春小説。1998年の社会的緊張を背景に、差別と怒りを抱えながらも生き抜こうとする声を描く。
二つの言葉と世界のはざまで、ジニは自分の輪郭を組み直していく。
田根剛がDGT.として設計に関わったエストニア国立博物館は、旧ソ連軍滑走路の記憶を建築に取り込んだ文化施設。場所の歴史を消さず、長い屋根と展示空間によって国の記憶と未来をつなぐ。
滑走路の記憶を、国の物語を受け止める建築へ変える。
黒柳徹子の歩みとテレビ草創期を重ねたNHKドラマ。井上剛は、実在の芸能史を軽やかな語り口と音楽的な演出で再構成し、テレビという媒体の記憶を現代の視聴者へ開いた。
テレビが新しかった時代の熱を、音楽と記憶のドラマとしてよみがえらせる。
漫才コンビ・ナイツによる独演会シリーズ。時事、芸能、言葉遊びを高速で組み合わせる塙宣之のボケと、土屋伸之の精密な受けによって、古典的な漫才の型を現代的に更新した。
言い間違いと時事性が、精密なツッコミによって舞台の笑いへ変わる。
漫才コンビ・ナイツによる独演会シリーズ。塙宣之の言葉のずれを軸にしたボケと、土屋伸之の聞き手としての技術が組み合わさり、漫才のリズムと情報量を高密度に展開する。
二人の呼吸が、言葉のずれを舞台の速度へ変えていく。
チームラボによる、水面を歩く鑑賞者とデジタルの鯉が相互に反応するインタラクティブ・インスタレーション。鯉の軌跡が線を描き、人に触れると花へ変化することで、鑑賞者の行為が作品の一部になる。
水面を歩く人の動きが、鯉の軌跡と花の変化を生み出す。
映画監督・溝口健二の作品を、映画史、美学、政治学、ジェンダー論、メディア論などを横断して読み直す大部の研究書。長回し、縦の構図、検閲記録、撮影台本などを手がかりに、溝口映画が開く近代性と政治性を分析する。
溝口映画のショットと資料を精密に読み、映画が歴史と政治を映す方法を問い直す。
毛利悠子の個展『Pleated Image』は、スキャナーや光、動きの仕組みを用いて、像が折りたたまれ、揺らぎ、生成される過程を見せる展示。機械的な装置と偶然性が交差し、見えるものの成立そのものを問い直す。
折りたたまれた像が、機械の動きと偶然のなかで別の見え方を獲得する。