毎日出版文化賞 まいにちしゅっぱんぶんかしょう
第6回(1952年)
受賞者
10名『真空地帯』は、野間宏による長編反戦小説。太平洋戦争中の日本軍内務班を舞台に、二年の刑を終えて原隊へ戻った木谷一等兵が、自分を陸軍刑務所へ追いやった冤罪と軍隊組織の暴力を見つめ直す。兵営の閉鎖空間を通して、人間を兵隊へ変えていく軍国主義の仕組みを描いた戦後文学の代表作である。
条文と柵に縛られた兵営で、木谷は自分を奪った軍隊の空白へ踏み込む。
『日本の彫刻』は、古代から鎌倉までの日本彫刻を大判写真と解説で紹介した美術出版です。仏像を中心とする造形の魅力を、戦後の印刷技術と美術史的視点によって広く読者に伝えました。
日本彫刻の造形を写真と解説で伝え、戦後美術出版の可能性を示した大型シリーズです。
『原爆の子 広島の少年少女のうったえ』は、教育学者の長田新が編んだ広島の被爆児童・生徒の手記集。原爆投下から数年後、少年少女たちが自分や家族に起きたこと、失われた日常、心身の傷を自分の言葉で記した。平和教育のために編まれ、英訳を含む複数の言語で読まれた、原爆体験の重要な証言集である。
子どもたちの手記は、原爆が奪った日常と、なお言葉にしようとする痛みを伝える。
『民間信仰』は、堀一郎が日本各地に残る民衆の信仰を理論的、体系的に捉えようとした宗教民俗学の著作。信仰の生きた実態、変容、混合の諸相を通じて、日本社会における民間信仰研究の方法と領域を明らかにする。
日本社会に息づく民衆の信仰を、宗教民俗学の方法で体系的に読み解く一冊。
『大正政治史』は、信夫清三郎による大正期日本政治の通史的研究。政党政治、憲政擁護運動、普通選挙運動、社会運動、帝国主義政策などを広い視野で扱い、大正デモクラシーを政治構造と社会変動の中で捉える。1950年代初頭に刊行され、信夫の代表的業績として毎日出版文化賞の対象となった。
政党政治と社会運動の交錯から、大正デモクラシーの可能性と限界を描き出す。
『農地改革の諸問題』は、農業経済学者・近藤康男による日本の農地改革研究。戦後改革の中心であった農地解放を、制度、農民経済、土地所有、農村社会の変化から検討する。1951年に有斐閣の経済学選書として刊行され、翌年に毎日出版文化賞を受けた。
土地の解放は、農村の経済と社会をどこまで変えたのかを問う。
『日本民謡大観 東北篇』は、日本放送協会が編んだ東北地方の民謡調査・採録資料。1952年刊行の原本は、地域ごとの民謡について歌詞、楽譜、解説を収め、東北の歌の伝承を体系的に記録した。のちに現地録音 CD 付きで復刻され、民俗音楽研究と地域文化研究の基礎資料として用いられている。
東北各地の歌声を、楽譜、詞章、解説、録音の形で後世へつなぐ。
『生理学講座』は、日本生理学会が編んだ生理学の総合的な分冊講座。1950年から刊行され、神経、感覚、運動、消化、実験法など、生体機能を扱う広い領域を専門家が分担して解説した。戦後日本の生理学教育と研究の基盤を整える大規模な講座出版である。
生体の機能を分野ごとに解きほぐし、戦後の生理学を支える知識体系を築く。
『日本の資源問題』は、河川工学者・資源問題研究者の安芸皎一による自然資源論の著作。戦後日本の復興と経済自立を背景に、水、土地、鉱物、エネルギーなどの資源を国土と社会の問題として捉える。1952年に刊行され、同年の毎日出版文化賞を受けた。
資源を量の問題だけでなく、国土と社会の将来を左右する条件として問い直す。
『湖の一生』は、地質学者・湊正雄による児童向け自然科学書。北海道の湖沼研究を背景に、湖が生まれ、変化し、やがて湿原や陸地へ移っていく長い時間を平易に説明する。1951年に福村書店の「地球の歴史文庫」として刊行され、翌年の毎日出版文化賞を受けた。
湖にも生まれ、育ち、姿を変えていく長い一生があることを語る。