日本の文学賞

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名誉と恍惚

谷崎潤一郎賞

名誉と恍惚

松浦寿輝

名誉と恍惚は、松浦寿輝による受賞作。刊行情報と賞データを照合して整理した作品で、人物の選択や時代・場所の空気を通じて、読後に残る問いを描く。

文学人生記憶

作品情報

名誉と恍惚は、受賞歴と書誌確認をあわせて読むことで輪郭が見えてくる作品である。

名誉と恍惚は、松浦寿輝の作風と受賞時の評価が交差する作品として位置づけられる。書籍として確認できるものはISBNを記録し、独立刊行が確認できないものは掲載媒体の識別子を流用せず、作品情報のみを整理した。

レビュー要約

  • 読者からは、題材への向き合い方と物語を支える筆致が評価されている。一方で、静かな展開や重い主題をじっくり受け止める作品として読まれている。

書籍情報

出版社
新潮社
発売日
2017-03-03
ページ数
765ページ
言語
日本語
ISBN-13
9784104717033
ISBN-10
4104717037
価格
5500 JPY
カテゴリ
本/文学・評論

ふるさとなんかどこにもないが、生きてやる。おれの名誉と恍惚はそこにある。日中戦争のさなか、上海の工部局に勤める日本人警官・芹沢は、陸軍参謀本部の嘉山と青幇の頭目・蕭炎彬との面会を仲介したことから、警察を追われることとなり、苦難に満ちた潜伏生活を余儀なくされる……。祖国に捨てられ、自らの名前を捨てた男に生き延びる術は残されているのか。千三百枚にも及ぶ著者渾身の傑作長編。

レビュー

  • 傑作中の傑作

    僕にとって松浦寿輝ではまず何より日本を代表する卓越した詩人であり、松浦の書く小説は優れた詩人の書く余技のように思っていた。耽美的で幻想的、素晴らしい読書の時間を与えてはくれるが、大好きというには何かが足りなかった。 しかしこの『名誉と恍惚』は、読み始めて早々、激烈な吸引力で僕を巻きこんだ。僕はただ圧倒され、読むというより押し流され、そして村上龍ですら書けないであろう緊迫のクライマックスに茫然とした。 この小説が、現代日本の頂点に立つ傑作であることを、自信を持って断言する。

  • 近くの本屋で売っていなかったので、ネットで購入したが失敗でした。

    長編が好きなので購入してみた。この作家は初めて読んだが、内容的には面白くなかった。ブックオフで新作なら高値で売れると思ったが、人気がないようで、売値は1000円だった。

  • 人生の規矩/存在の歓喜

    体裁は『ロング・グッドバイ』を彷彿とさせるハードボイルド・エンターテイメントだが、舞台が戦時の上海で作者が松浦氏となれば、波乱万丈のストーリーを追いかけるだけの話になるはずもない。近代日本の桎梏が魔都の闇に揺曳し、読者は国家や民族、戦争の本質について深く考え直させられることになる。とりわけ魅力的なのが、日本人と朝鮮人の「雑種」として生まれ、中国人として生きることになる主人公芹沢。名誉(生の規矩)とプルースト的な恍惚(存在の歓喜)に導かれ、どんな状況下でも自己に忠実であらんと行動する姿に胸を打たれた。やはり戦時の上海を舞台としたカズオ・イシグロの『私たちが孤児だったころ』同様、これもまた一つの孤児の物語であり、時代の制約を超えて生きようとした一人の人間の物語である。

  • 何かが欠けているのでは

    上海が舞台というので手に取った。大部な作品なので読了するまで時間を要したが、最後までストーリーの展開について行けなかった。専門家による大方の評価は良いようなので浅学の身であれこれ書くのもおこがましいが、私は主人公の人物設定に無理があるのではないかとの思いが最後まで拭えなかった。著者は上海に関わる文献を渉猟し、特に木ノ内誠氏の『上海歴史ガイドマップ』に世話になったと記すくらいだから街の様子などを描く上で違和感はなかった。だが何かが欠けていると思っていたが、それが文献リストをみていて思い当たった。当時を描いた中国人の著作がないこと。これは翻訳が多数出ている。また1930年代は上海映画が全盛の時代なので、当時の映画シナリオはともかく佐藤忠男氏などの著書に目を通していれば、当時の上海市民の息吹が感じられるだろう。そこが欠けているので、インテリで警察官出身が主人公が波止場人夫、いわゆるクーリーをするなどのあり得ない設定がなされるのだろう。そんな点を惜しいと思った。

  • 近年稀にみる重厚かつ懐の深い750ページ超の大長編小説

    今回初めて松浦寿輝氏の作品を読んだのですが、率直な感想として約半世紀前に読んだ三島由紀夫の長編小説以来の純文学の本格長編小説という気がします。 戦前の中国の魔都上海の租界を舞台として欧米、日本、国民党、青幇など様々な勢力が蠢く混沌とした状況の中、正義感の強い上海の工部局に勤める日本人警察官・芹沢が謀略に巻き込まれていくプロセスの中で物語がダイナミックに進行する。 誰が敵なのか味方なのか判然としない中、彼にとっても思いもかけない展開により警察を追われ殺人を犯してしまう・・・ 世界大戦前夜の息詰まるような極限状態の中、当時の混乱した中国の状況がまるで映像を見ているかのように生々しく鮮烈に再現され、芹沢やその周囲の登場人物の心理描写や思惑、更に軍事国家である大日本帝国の狂気極まる大陸への進駐や諸勢力の動きが、史実に忠実に描かれかつリアリティ溢れる筆致で語られています。 特に終盤の芹沢と日本陸軍参謀本部の嘉山少佐と対峙する場面は圧巻の一語に尽きる。 最後は、名を捨て祖国も捨てざるを得なかった若き一人の日本人の凄まじい感動の物語であり、いつの日かこの小説が映像化されることを強く期待したくなるような作品である。

  • "人間を見つめた"大作だが、長い(750頁超)だけで詰まらないという他はない読後の徒労感が残るだけの駄作

    盧溝橋事件後の1930年代後半の上海を舞台に、工部局警察官の芹沢という男を主人公として"人間を見つめた"大作だが、長い(750頁超)だけで詰まらないという他はない物語。一応、軍及びそのスパイによって罠に嵌った芹沢の転落人生をサスペンス・タッチで描いてはいるのだが、日中戦争を背景とした歴史小説でもなければエスピオナージ小説でもなければサスペンス小説でもないという何とも中途半端なシロモノ。全編、芹沢の言動や心理を描いているのだが、その芹沢に何の魅力もないので、物語に全く求心力がない。 作者の意匠も皆目不明である。芹沢の実の父が朝鮮人(作中の表記のまま)であったり、ある登場人物が、「この広い支那(これも作中の表記のまま)を占領する事を考えている日本は愚か」、「支那人の強さ(したたかさ)には感心する」、といった言辞を弄している事から、"八紘一宇"をお題目として戦争に突き進んだ日本批判(あるいは戦争批判)の書の様にも見えるが、この辺も曖昧模糊としていて主張点が良く分からない。やはり、芹沢という男に焦点を当てて、"人間を見つめた"としか思えない物語なのだが、上述した通り、芹沢は単なる堅物の男で、それが簡単な罠に嵌ってしまい、それを乗り越える柔軟性や知恵を欠いているという何の工夫もない設定なので、物語が面白い筈がない。逃亡犯となった芹沢が生き残って行けるのは、単に、<魔都>上海租界が"カオス"だからである。その癖、芹沢は(作者の思惟そのものに)戦争や民族に関する高説を吐くのだから滑稽という他はない。この芹沢の信念を貫く事が「名誉」であり、それが達成された時に「恍惚」を感じるのだが、この物語で芹沢の「名誉」を云々するのは噴飯物だし、「恍惚」は物語の途中では性的陶酔や逃亡生活の果ての諦観を意味していたのだから、これまた噴飯物である。 太平洋戦争開戦直前という時代設定、<魔都>上海という舞台設定なのだから、もっと読者を惹き付ける物語に仕立て上げて然るべきだったと思う。読後の徒労感が残るだけの駄作だと思った。

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