宝石賞 ほうせきしょう
第9回(1955年)
受賞者
9名「深淵の底」は、土英雄が複数の証言を積み重ねながら、大学教授夫人の死をめぐる謎を追う心理ミステリである。事件の表面を一気に解くのではなく、関係者の言葉や記憶を通じて、隠された感情と真相が少しずつあらわれていく。
証言の奥に沈む感情をたどり、転落死の謎へ近づく心理ミステリ。
『落ちる』は、多岐川恭の初期推理小説を代表する短編です。自己破壊へ傾く男の危うい心理を軸に、犯罪へ向かう衝動とその皮肉な帰結を鋭く描いています。
危うい心理の傾きが、取り返しのつかない一線へ主人公を押し出していく。
「黄いろい道しるべ」は、白家太郎名義で発表された多岐川恭の短編ミステリで、1955年度の『宝石』短篇探偵小説懸賞で上位佳作となった。映画館で起きる刺殺事件を題材に、日常的な場所にひそむ不穏さと、昭和ミステリらしい心理の歪みを描く作品である。
映画館という身近な闇のなかで、ささやかな道しるべが事件の不穏な影を照らす。
「魔女の足あと」は、大島薫による推理短篇である。題名が示す不穏な痕跡を手がかりに、日常の中へ奇妙な影が入り込む感覚を持つ作品として読むことができる。
不穏な痕跡を追う題名が、謎と怪しさを呼び込む推理短篇。
「月の光」は、利根安理名義で発表された黒羽英二の短篇で、宝石短篇小説の佳作に入選した作品である。江戸川乱歩や鮎川哲也に評価された幻想味のある推理短篇として、のちに鉄道や廃線をめぐる作品を集めた『十五号車の男』に収録された。
一作限りの筆名で発表され、後年まで幻の短篇として語られた幻想ミステリ。
「灯り」は、藤井政彦による短編探偵小説で、1955年度の『宝石』短篇探偵小説懸賞で佳作に選ばれた作品。戦後ミステリ誌『宝石』が新人作品を募っていた時期の一作で、明滅する灯りのイメージを題名に掲げ、事件や心理の暗がりへ読者を誘う短編として位置づけられる。
灯りの届く場所と届かない場所の境目に、戦後探偵小説の緊張が宿る短編。
「検体X」は、坂西明による短編探偵小説で、1955年度の『宝石』短篇探偵小説懸賞で佳作に入った作品である。現時点で単行本や文庫への収録は確認できず、題名が示す匿名化された検体の不気味さを入口に、科学的な観察や証拠の扱いを想起させる戦後探偵小説の一作として位置づけられる。
名を失った検体をめぐる不穏な響きが、戦後探偵小説の実験的な短編として残る。
「消えた街」は、川野京輔による短篇ミステリである。街そのものが消えたかのように見える大胆な発想を、短い形式の中でコンパクトに組み立てた作品として知られる。
大規模な消失の謎を短篇の切れ味でまとめた、川野京輔の初期ミステリ。
『誰が私を殺したか』は、室生吾郎による短篇探偵小説として宝石賞の1955年度佳作に挙げられた作品です。題名は、すでに被害を受けた語り手の視点から犯人を問う倒錯的な謎を思わせ、戦後探偵小説らしい強い導入を備えています。
「私を殺したのは誰か」という問いが、事件の輪郭を逆向きに照らし出す。