芸術選奨文部科学大臣賞 げいじゅつせんしょう もんぶかがくだいじんしょう
第72回(2022年)
受賞者
21名竹本千歳太夫が文楽公演『ひらかな盛衰記』神崎揚屋の段で、傾城梅ヶ枝の悲痛な思いを全身全霊で表現した成果として評価された。古典芸能の語りの力が、舞台の悲劇性を深く支えている。
古典の悲劇を、語りの力で現在に響かせる。
文学座に書き下ろされた戯曲で、夏目漱石『虞美人草』を1973年の日本に置き換えた青春群像劇。ロック雑誌を作る若者たちの揺れを通して、理想と現実のあいだで大人になっていく過程を描く。
昭和の転換点に、漱石の世界をロックの熱でよみがえらせる。
映画『信虎』で、特殊メイク・スーパーバイザーとして俳優の変身を支えた成果が評価された。時代劇の人物造形を、デジタル撮影にも耐える立体美粧として成立させた点に特徴がある。
人物を変身させる技術が、時代劇の説得力を押し上げる。
『ドライブ・マイ・カー』は、小説と演劇の要素を重ねながら、喪失と再生の感情を静かなロードムービーのかたちで描き切った映画。会話の間や沈黙まで含めて人物関係を組み立てる演出が評価された。
静かな運転の時間が、喪失と再生を浮かび上がらせる。
新国立劇場の『ドン・カルロ』で、フィリッポ二世の圧倒的な歌唱が受賞理由に挙げられた。ヴェルディ後期の重厚な歴史劇の中で、低音の存在感が作品全体の緊張感を支えている。
低音の重みが、王権と愛憎のドラマを支える。
長年踊ってきた『ボレロ』で新境地を開いた成果が評価された。反復の中で高まる緊張と集中を、上野水香が舞台上で持続的に立ち上げている。
反復のうねりを、身体の集中力で立ち上げる。
TBS金曜ドラマのオリジナルシナリオ完全版。ピークを過ぎたレスラーの寿一が、父の危篤をきっかけに家へ戻り、家族と介護とプロレスのあいだで揺れ直す全10話の脚本集。
家に戻るほど、家族の濃さがむき出しになる。
映画『信虎』と『マスカレード・ナイト』での特殊メイクの成果が評価された。人物像の造形を通じて、画面上の存在感と物語の説得力を押し上げた仕事として受賞対象になった。
特殊メイクが、人物の輪郭と物語の重みを支える。
夫の暴力から逃れて地方都市に身を寄せた泉が、高齢の画家の家で働きながら、喪失のあとに残る愛と再生を見つめ直す長編。追いつめられた人間の孤絶と、そこからの再出発を描く。
全てを失った男女の愛と再生を描く。
写真家・畠山直哉の個展『Natural Stories』。石灰岩や鉱山跡、映像作品『BLAST』、故郷・陸前高田の風景などを通じて、自然と人間の関わりを俯瞰する展示として評価された。
自然と人間の関わりを、壮大な風景から見つめ直す。
NHKドラマ『スローな武士にしてくれ~京都 撮影所ラプソディー~』は、京都太秦の撮影所を舞台に、アナログな時代劇制作とデジタル映像技術の出会いを軽やかに描いた作品。古びた現場の熱気と人々の手触りが生きている。
旧式の撮影現場に、デジタル映像の風が吹き込む。
落語家・春風亭一朝の高座『淀五郎』。歌舞伎の世界を題材にした芝居噺で、無名の役者が舞台のなかで立ち直っていく人間ドラマが核になっている。
舞台の外側から、歌舞伎の重みと人の器量を聴かせる。
鈴本演芸場の夜席で、紙切りの芸を通して客席の空気をつくった仕事が評価された。即興性の高い寄席のなかで、観客とのやり取りを含めた切れ味が目立つ。
寄席の夜を、紙切りの瞬発力で支える。
神戸市長田区を舞台に、地域の商店や公共空間を会場へと変えながら、アートを通じて日常の風景を見つめ直す芸術祭。新長田の街を歩きながら多様なプログラムに触れられる構成が特徴で、地域と表現の接点を広げている。
新長田の街そのものを会場に、日常を少しだけずらす。
井口時男が、三島由紀夫に影響を与えた国文学者・蓮田善明の仕事を、戦争体験と文学的思索の両面から掘り下げる本格評論。日本浪曼派や保田與重郎との関係も含め、近代日本文学の中での位置を立体的に描く。
戦争と文学の交点から、蓮田善明の全体像を描き直す。
佐藤康宏による伊藤若冲の評伝。若冲が生きた時代、家族、禅、ジェンダー、模写や写生、動植綵絵の制作背景などを手がかりに、作品と生涯を新しい視点から読み解く。
図版を交えながら、若冲の画業と生涯を最新の視点で読み解く。
池田亮司の個展。音、光、データ、数理的な構造を軸に、視覚と聴覚、空間の感覚を統合して提示する展覧会として位置づけられる。
音と光とデータで、知覚のスケールを拡張する個展。