野間文芸賞 のまぶんげいしょう
第9回(1956年)
受賞者
6名『筏』は、外村繁が近江商人の家を舞台に、徳川末期の経済政策に揺さぶられながら商圏を広げていく人びとの気概と生活を描いた長編小説である。自伝的な商家小説の流れに連なる一作として、家と商い、時代の変化が交差する世界を重厚に描き出す。
近江商人の家を軸に、商いの力と時代の波を描く外村繁の代表的な長編である。
『機械のなかの青春』は、佐多稲子が戦後の労働現場と若い女性たちの生を見つめた小説です。工場という近代化の場に置かれた青春を、働くこと、書くこと、仲間との関係を通して描き、戦後文学における労働とジェンダーの主題を考えるうえで重要な作品として読まれています。
機械の響きのなかで、若い働き手たちが自分の言葉と生活を探していく。
『黒い蝶・姨捨』は、井上靖が戦後の人間関係に潜む欲望、喪失、老いを異なる角度から描いた受賞対象である。『黒い蝶』では、富豪の亡き娘への思いと演奏家招聘をめぐる企てが交錯し、『姨捨』では古典的な姨捨伝説を背景に、血縁と介護、老いへのまなざしが静かに掘り下げられる。
富と追憶が人を動かす長編と、老いをめぐる血縁の痛みを描く短編が、井上靖の心理描写の幅を示している。
『裲襠』は、壺井栄が庶民の生活感情と女性の生の重みをあたたかな筆致で描いた小説である。日々の暮らしに根ざした人物の思いをすくい上げ、家庭や社会の中で揺れる心の動きを静かに浮かび上がらせる。
暮らしの細部から、庶民の心と女性の生を見つめる壺井栄の代表的な小説。
『流れる』は、没落しかかった芸者置屋に女中として住み込んだ梨花の視線を通して、花柳界に生きる女性たちの暮らしと感情を描く幸田文の代表的長編である。華やかな表側の奥にある哀しさ、はかなさ、浮き沈みを、台所の裏側から観察する細やかな筆致が支えている。
台所の裏側から花柳界を見つめ、女たちの生の揺れを静かに描いた幸田文の傑作である。